ブラック企業のリアリティに涙が止まらず一気読み。「風は西から」村山由佳

評価:★★★★★

「あの会社は、いくらなんでも尽くし甲斐がなさ過ぎますよ。一生懸命になればなるほど、その気持ちをとことん利用されて、全部まとめて仇で返される感じがする」
(本文引用)
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 書店で見た瞬間、「これは一気読みする気がする」と直感。
 400ページ超の長編なのに、昼過ぎに買い、夕方には読み終えてしまいました。

 ブラック企業による過労自死。
 国がいくら「働き方改革」と提唱しても、撲滅されることも根絶されることもないのでしょう。

 それは「いじめ」がなくならないのと同じなのかもしれません。

 「仕事」という大義名分で、一個の人間の肉体も精神もこてんぱんに痛めつけ、「いじめの認識はなかった」と言い逃れようとするのですから。




 村山由佳さんの最新刊「風は西から」は、真面目で優しく誠実であればあるほど、社会のいじめっ子の標的になることがよくわかる一冊。
 ブラック企業の、あまりにリアルな描写は、読んでいてかなり辛いです。

 でも目をひんむいてでも読まなければならない・・・そう感じさせる、迫力ある小説です。
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■「風は西から」あらすじ



 主人公の千秋は、大手食品メーカーに勤める女性。

 結婚を考えている恋人・健介がいます。

 健介の夢は、実家の事業を大きくすること。

 広島の実家は料理屋を営んでおり、毎日繁盛していますが、健介は跡を継ぎ、2号店、3号店と展開させたいと考えています。

 そんな健介が就職したのは、最大手の居酒屋チェーン「山背」。

 本部で営業などを経験した後、いよいよ現場での仕事となり、夢を膨らませる健介。

 しかしそこにあったのは、体も心も完膚なきまでに叩きのめされる現実でした。

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 睡眠時間もほとんどとれず、日に日に憔悴する健介。

 千秋は心配し、健介に「あなたの会社はおかしい」と訴えますが、社長に心酔している健介は聞く耳を持たない様子。

 そしてある日、千秋のスマホに健介からこんなメッセージが届くように。

疲れた。


疲れた。



それから数日後に送られたメッセージは、

ごめん。



千秋があわてて健介の部屋を訪れたところ、外では騒ぎが。

健介は自宅マンションから飛び降り、帰らぬ人に・・・。

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■「風は西から」感想



 タイトル「風は西から」のもとは、音楽ファンならだれもが思い浮かべる「あの曲」。

 健介が広島出身ということで、千秋と健介の二人を励ます曲として登場します。



 しかし、作中で用いられる「風は西から」のメッセージは、ただ千秋と健介を前進させるだけのものではありません。

 骨の髄まで疲れ切り、自分という人間の尊厳を打ち砕かれたとき、人はいったいどんな言葉を求めるのか。

 明日はもっといいことがある、だから走れなのか。
 それともゆっくり行こうぜなのか。

 本書は、労災認定までの戦いも描いていますが、それ以上に「ブラック企業で疲れ果てた人に、本当に必要なものは何か」をとことん考えさせる内容となっています。

 よって、ビジネス小説や法廷小説のような「企業との闘い」を期待して読むと、ちょっと物足りないかも。
 
 企業との闘いといったビジネス路線ではなく、もっと人間ドラマ路線というのでしょうか。

 「あなたの大切な人が、異常な働き方をしていたら、あなたはどうしますか?」と、世の人に、それはそれはじっくりと考えさせる小説となっています。

 最近、家族や恋人が仕事で疲れているみたい・・・と感じている人は必読です。

 また、これから社会に羽ばたいていくフレッシュマンにも、ぜひ読んでほしい一冊。

 こう言ってはなんですが・・・カリスマ的な社長の理念に心酔して入社しようとしている人は、一応読んでおいたほうがいいでしょう。

 今はまだ「健介の働き方、健介の会社の異常さ」が客観的に認識できると思います。

 でもこれが、中に入ってしまうとなかなか気づかないものなんです。

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 後を絶たない過労自殺。
 第三者は「死ぬぐらいなら辞めればよかったのに」といくらでも言うことができます。

 でも「中の人」になった瞬間、そういった判断力はほぼゼロにまで低下します。

 ブラック企業の「ブラックたるゆえん」は、従業員の思考力・判断力を鈍らせるよう巧みに運営されている点にあるのです。

 働いていくなかで「これってちょっとおかしくないか?」と思える感覚を保つためにも、部屋の本棚に置いておきましょう。

 仕事に人生をつぶされることを予防できる可能性大です。

 「自分の働き方、おかしくない?」
 「家族や恋人の仕事の仕方、それって普通?」

 ほんの一滴でもそんな疑問が出てきたら、「風は西から」をご一読を。

 そうすれば、大切な人にこんなことを言わせずにすみますよ。

 失うものなんか何もない。いちばん大事なものは、すでに失ってしまったのだから。



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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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