認知症が急増する現代に、これは絶対読むべき!中島京子「長いお別れ」

評価:★★★★★

 この人が何かを忘れてしまったからといって、この人以外の何者かに変わってしまったわけではない。
 ええ、夫はわたしのことを忘れてしまいましたとも。で、それが何か?

(本文引用)
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 今、世界的に認知症が急増しています。
 2017年、WHOは認知症について「国際的な公衆衛生上の優先事項として、各国で協力して対処する必要がある」と発表。
 2030年には認知症患者が7470万人に、2050年には1億3150万人になると推計されています。
(※日本経済新聞 2018年3月12日朝刊25面より)

 認知症の種類は主に4つ。
 「アルツハイマー型」「脳血管性型」「レビー小体型」「前頭側頭型」に分けられます。

 そのなかでも多いのがアルツハイマー型。



 日本の認知症患者のうち、3分の2がアルツハイマー型にあたるとされています。

 今回紹介する「長いお別れ」は、アルツハイマー型認知症患者の物語。

 校長や図書館長も務めた男性が、趣味の会合にたどり着けなくなり、家に帰れなくなり、家に帰っても帰っても「帰りたい」とわめくようになる・・・。

 家族にとって、男性の姿はすべてが理解不能。
 妻、三人の娘、孫たちは、そんな男性とどう関わり合うのでしょうか。
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■「長いお別れ」あらすじ



 東昇平と妻・曜子は、東京郊外に住む夫婦。
 昇平は国立大学を出て中学校の教員となり、校長や図書館長まで務めたインテリです。

 そんな昇平は、ある病気に侵されていました。
 病名は「アルツハイマー型認知症」。

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 昇平の病状は確実に進み、家族は昇平の一挙手一投足に頭を悩ませることに。

 家に帰れなくなり、旅行に出かけてもどこに来ているのかわからず、葬儀に来ているのに誰の葬儀かわからず、入れ歯をベッドに隠しては探し、汚物をオムツからよけては並べるなど、「あのしっかりしていたお父さん」からは考えられない行動が次々と出てきます。

 ヘトヘトになる妻と娘たちですが、最終的にたどり着いたところとは?
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■「長いお別れ」感想



 一言でいうと、「最高」。
 もろ手を挙げて、そう賞賛したくなる小説です。

 認知症を題材とした小説は多々ありますが、これほど「高度な技術」を感じる小説はありません。

 どこが高度かというと、「笑いながら泣け、泣けながら笑える」からです。
 
 とかく暗く、過酷な描写になりがちな認知症の物語。
 でも「長いお別れ」は、ユーモアを持たせながらも、認知症の現実をしっかり描いています。

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 だから余計、「長いお別れ」は心に迫ります。

 悲しみが底を打つと、人間、笑いたくなる。
 いや、笑いでもしないとやっていけない。

 泣いているうちに笑ってしまい、でもやっぱり泣いてしまうという何とも複雑な感情が、読むうちにドドーッと押し寄せて「感情の海」に溺れそうになります。

 たとえば印象深いのが、お通夜のシーン。
 昇平は娘と一緒に、旧友の通夜に参列します。
 
 通夜の席で、昇平はかつての友人たちと再会。
 故人は昇平と最も仲が良かったため、友人たちは昇平に告別式で弔辞を述べるよう勧めます。

 娘は「無理です」と断るのですが、友人たちはなかなか承諾しない様子。

 でも次第に、昇平の身に起きていることの深刻さを友人たちは悟っていきます。

 マツモト氏は一杯目を一気に飲み干すと、昇平に向かって言った。
 「まったくいやになっちゃうなあ。我々の同期もこうしてどんどん死んじゃう。残される者はたまらんな」
 昇平の目はみるみる丸くなった」
 「え? 誰か死んじゃったのか?」


 その時は無理やり「他の同期が死んじゃったことを指している」と解釈した友人たちですが、会話が進むうちに、昇平の病状の深刻さを痛感せずにいられなくなります。

 他、昇平の「きれい好き」エピソードも秀逸。
 就寝中、きれい好きなだけに思わぬ行動に出る昇平。

 それを聞いた娘たちはただただ驚愕。
 
 妻・曜子の「ほら、お父さん、きれい好きだから」の言葉に対し、娘が「なんか、その言葉は、この場合、当てはまるのかしらね」と返します。

 この「きれい好き」のシーン、思わず「ブッ」」と笑ってしまいますが、笑った後、心の底に重い石がのしかかったような気持ちになるんですよね・・・。

 「ああ、人間の尊厳って何だろう。こうなってもまだ、人は生きていかなくてはならないのだろうか。こんなことになるのなら、いっそ・・・」と絶望的な気分になります。

 だから「長いお別れ」は、悶絶するほど「うまい!」と言いたくなるんです。
 認知症の現実が、臨場感たっぷりに、かつユーモラスに描かれている。だからこそ認知症の厳しさが、ちょっと跳ね返せないほどに強く伝わってくる。
 これはものすごく高度な技術です。
 
 中島京子さんの小説は何冊か読んでいますが、「こんなにすごい作家だったとは・・・」と尊敬の念を新たにしました。
 小説家らしい小説家、という感じですね。

 「長いお別れ」は、着陸も実に見事。
 最後、どうなるかとヒヤヒヤしていましたが、こういうラストは全く予想外。

 最後の最後の最後まで、ひたすら「う~ん、うまい!」と唸りました。

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アコチム

Author:アコチム
仕事・家事・育児の合間に文字を楽しむ、兼業主婦の備忘録です。
本の評価は以下のとおり(2015年10月~)
★★★★★=読むと一生幸せでいられます。
★★★★☆=読むと1年間幸せでいられます。
★★★☆☆=読むと1週間幸せでいられます。
★★☆☆☆=これ以下の本は載せません。

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