悲しみに寄り添おうとする人をピシャリと正してくれる。重松清「また次の春へ」。

評価:★★★★★

 「慎也くんでも誰でもいいんだけど、津波で亡くなったひとは、あんたをすっきりさせるために亡くなったわけじゃないからね」
(本文引用)
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 冒頭で紹介した引用部分、

 「慎也くんでも誰でもいいんだけど、津波で亡くなったひとは、あんたをすっきりさせるために亡くなったわけじゃないからね」


は、主人公の母親がピシャリと言った言葉。

 そう、重松清さんの本はいつも読者にピシャリと言ってくれる。

 悲しみに寄り添おうとするなんて、悲しみを100%理解しようとするなんて、傲慢なんだよ、と。
 
 さらに続けて、こうピシャリと言ってくれる。




 「だからまだまだ努力しようよ。できないところを頑張ってみようよ。もっともっと一緒に想像してみようよ」と。

 重松さんの本には、いつも「何でこんなに泣かされちゃうかな~」とまいってしまいますが、本書はそのなかでも心打つ一冊。
 
 東日本大震災で被災した方々の思いを、あらゆる場面、あらゆる角度から描ききった珠玉の短編集です。

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 本書は七編からなっており、全て東日本大震災がテーマです。

 「東日本大震災のその後」と言った方が適切かも。
 
 愛する人を津波で亡くした人々が、その後、どんな思いで生き、どんな思いで自分を立て直そうとしているのかを、実にさまざまな切り口から描き、掘り下げていきます。

 一通の手紙から、津波で他界した両親の側面を初めて知る男性。
 貸した本の1ページにしおりがはさまったまま、行方不明になった幼なじみ。
 震災で亡くなった、かつての生徒を思い出せず、悔やむ元教師・・・。

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 なかでも心にジンとしみたのは、「記念日」。
 カレンダーをめぐり、「支援する側」と「支援される側」との乖離を鋭く描いています。

 ある小学校で、被災地にカレンダーを送る企画がもちあがります。
 一言でカレンダーを送ると言っても、事情が事情だけに難しいもの。

 海の写真があるものはもちろん自粛。
 動物の写真があるものも、ペットと離ればなれになった人への配慮から、避けることにします。

 そして、「あの日」以前の日付を切り取るという工夫も。

 被災した方々の気持ちを傷つけることのないよう、考えに考えてカレンダーを送ります。

 ところが現地からは、意外な要望が返ってきて・・・?

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 震災以降、フィクション・ノンフィクションを問わず「被災地を思う」本はたくさん出版されています。
 私もできるかぎり読み、被災地の状況や被災者の方々の気持ちを少しでもわかろうとしてきました。

 でも、この「記念日」という物語に、ピシャリと言われてしまいました。

 本人の気持ちは、本人にしか決してわからないんだよ、と。

 物語終盤では、至らなかったと思い込んでいたことが、被災者の方々の心を温めていたことも判明。
 
 嬉しいことではありますが、それもまた「本人にしか、この気持ちはわからない」とピシャリと言っているようです。

 「記念日」は本書のなかでは、ちょっと異色な設定ですが、訴えていることは非常にまっすぐ。
 
 読めば読むほど、「悲しみは本人にしかわからない」と痛感させられ、同時に「もっと知りたい、もっと思いを共有したい、もっと悲しみ・辛さをぶつけてほしい」という思いに駆られます。

 もうすぐ、また次の春が来ます。7回目の春が来ます。

 でも、10回来ても20回来ても30回来ても・・・当事者と、そうでない者との距離はなかなか縮まらないでしょう。

 だからこそ、重松さんのような作家が世の中に必要。
 無理に距離を縮めようとする者を、ピシャリと諫めてくれる人が必要なのです。

 「また次の春へ」は、そういう意味で「小説の力」を感じる本。
 
 悲しみに寄り添おうなんて、傲慢だよ。
 でも、生きている限り一緒に考えていこうよ、想像していこうよ。

 そう発破をかけてくれる、大事な大事な一冊です。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
仕事・家事・育児の合間に文字を楽しむ、兼業主婦の備忘録です。
本の評価は以下のとおり(2015年10月~)
★★★★★=読むと一生幸せでいられます。
★★★★☆=読むと1年間幸せでいられます。
★★★☆☆=読むと1週間幸せでいられます。
★★☆☆☆=これ以下の本は載せません。

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