「天地明察」

 「星はときに人を惑わせるものとされますが、それは、人が天の定石を誤って受け取るからです。正しく天の定石をつかめば、天理暦法いずれも誤謬無く人の手の内となり、ひいては、天地明察となりましょう」
 (本文引用)
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 ロマン、ただただロマンである。
 
 それほどまでにロマンを感じさせるのは、題材が宇宙ゆえ、というだけではない。
 この作品にこぼれんばかりに溢れる生命の輝きと不撓不屈の情熱・・・これが、読む者に壮大なロマンを抱かせてくれるのだ。
 ああ、この小説と出会えた幸せをどう伝えれば良いのだろう。己の貧しい語彙が呪わしい。
 なかなか「明察」と思えるほどの言葉が出てこない。

 そう、その小説とは、2010年に本屋大賞を受賞し、今年9月にいよいよ映画が公開される「天地明察」
 天と地を結ぶ「暦」を変える、という大事業を描いた宇宙規模の時代小説である。


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 時は江戸時代前期。囲碁の家元・安井家に生を受けた渋川春海こと安井算哲は、碁打ち衆という職分で四代将軍家綱に仕えている。暦術や算術にも長ける多趣味ぶりと、そののんびりとした性格ゆえか、春海は城内で可愛がられる。

 そんなある日、老中・酒井忠清から途轍もない依頼を受ける。

 「北極星を見て参れ」

 なぜ太陽の熱で月が燃えないのか、宇宙はどれほど広いのか-かねてからそんな疑問を持っていた酒井氏は、その謎を解く役として、春海に白羽の矢を立てる。

 しかし、その酒井氏の依頼は、後に日本を大転換させる、ある大事業に通じるものであった。


 その頃、名君の誉れ高い会津藩主・保科正之は、武ではなく文によって泰平の世を開きたいと考えていた。
 そこで生み出された策が、改暦であった。

 当時、長きにわたり日本で使われていた暦には、実は限界がきていた。
 800年もの時を越えて、夏至や冬至、そして日月の蝕がずれる事態が生じていたのである。
 そこで正之は、北極出地の業績を見込んで、春海にその大事業を命ずる。

 しかし、暦を変えるということは、生活そのものをひっくり返すに等しいこと。
 保守的な公家や朝廷を始めとした大変な反発が、春海を襲う。

 さあ、彼らに挑む、いや宇宙に挑もうとする春海の挑戦の行方は・・・?
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 いやもう、「素晴らしい」の一言である。
 
 この小説は、実話をもとにして書かれている歴史小説であるが、匂いたつような人間ドラマが大変味わい深く描かれており、歴史や教養といった枠を超えて、心の底から楽しめ、そして感動できる。

 無限の宇宙との勝負は、まさしく自分との戦い。
 その戦いを続ける春海の姿が本作品の見所だが、それ以上に心を揺さぶられるのが、春海を囲む仲間たちの姿だ。

 ともに北極出地に赴き、互いに切磋琢磨しながらも、若い春海の心を思いやる算術の先輩たち。
 世の平和を思い、自分の政治生命を賭して春海を支えようとする藩主や老中、副将軍たち。
 春海の一生の師であり恩人である、和算の祖。
 そして春海と共に壮大な夢を追いかける妻・・・。

 この、春海を支える者たちの姿が、本作品の最も伝えたいことだったのではないかと、私は思う。
 己の信念を貫き、夢に向かって純粋に努力する者は、決して相手を貶めたり羨んだりしない。そして懸命に生きる者に対しては、身分の上下なく、どこまでも寛容だ。

 なかでも印象的だったのが、酒井忠清が春海にかけた、以下の言葉だ。

 「算哲の言、また合うもあり、合わざるもあり」

 蝕を当てるのに失敗するという大失態をおかした、春海にかけた一言である。

 この失態は、ある意味、酒井氏の社会的立場まで危うくするものだ。
 にも関わらず、酒井氏は怒鳴りつけることもなく、沈黙の後、穏やかにこの言葉を放つ。
 
 何という寛大さ、何という人間の大きさだろう。

 物語中には、このような場面がいくつも見られ、そのたびに春海は成長していくのだが、そんな彼らの一挙手一投足に、私は涙が止まらなかった。
 陳腐な表現だが、仲間とは、人間とは、何て素敵なものなのだろうと、心から思わせてくれる。そんな小説だ。
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 私は思い出すだろう。星を見るたびに、日蝕や月蝕を見るたびに、夏至や冬至が来るたびに、春海とその仲間たちのことを。
 そして、ちっぽけながらもそんな人間がここにいることを、作者の冲方 丁氏と渋川春海夫妻に知ってもらえたら、このうえなく幸せである。
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 「月刊 碁ワールド」9月号にて、
映画「天地明察」監督の滝田洋二郎氏と吉原由香里さんの対談が読めます!
 撮影の裏話はもちろん、映画のワンシーンや人物相関図等も載っていて、
読み応えたっぷりです!
 私はこのページのためだけに「碁ワールド」を買いました・・・。
 (あ、もちろん他のページも読みましたよ!)

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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