菊池雄星選手も薦める「殺人犯はそこにいる ~隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件~」清水潔

評価:★★★★★

私は問いたい。
殺人犯がそこにいる。罪を問われず、贖うこともなく、平然と。
司法機関は、それを放置するのか?
法治国家にとって、これ以上の問いは存在するのか、と。

(本文引用)
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 本は名作すぎると、いろんな話題を呼ぶようですね。
 某ドラマが、本書をパクっているのではないかと問題になっていた最中、日経新聞で菊池雄星投手(西武ライオンズ)が紹介。

 「超」がつくほどの読書家・菊池雄星選手が紹介するぐらいだから、これは間違いないと思い、ようやく読みました。
 ちなみに菊池選手は、本書が「文庫X」として売り出されたとき、思わず「やった」と思ったとか。

 それは菊池選手が、「なるべく多くの人に本書を読んでもらいたいと思っから」だそうです。
 (※それにしても、菊池雄星さんの読書コラムは素晴らしかったですね~。
  本に対する情熱を熱く、しかも冷静に、知性と表現力あふれる文章で語ってくださり、菊池選手の教養・人間性の豊かさに心底感動しました。)


 
 そんな、各方面から絶賛の声を浴びる「殺人犯はそこにいる」。

 すでに読まれている方も多いと思いますが、ここで改めてご紹介します。
 
 日本を動かそうとした記者の記録ですが、日本の前に、読者の心を大きく揺り動かす一冊です。
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■「殺人犯はそこにいる」概要



 本書でとりあげる主な事件は、「北関東連続幼女誘拐殺人事件」です。

 栃木県と群馬県の県境付近で、1979年から1996年にかけ、4歳~8歳の女の子が何者かに連れ去られます。
 5件の事件のうち、4人の女の子は遺体で発見。1人は行方不明となっています。
 
 誘拐場所はパチンコ店が多く、保護者がパチンコをしている間に、何者かに声をかけられ消息を絶っています。

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 事件が大きく動いたのは、1991年。
 元幼稚園バスの運転手の男性が逮捕され、その後17年間刑務所に入れられます。

 ところが著者・清水潔氏が取材を重ねるうちに、男性が無実である可能性が浮上。

 無実の男性が刑務所で長期間過ごし、しかもその間、真犯人は野放しという最悪の事態であることがわかってきます。

 冤罪と真犯人・・・著者は綿密な取材を通し、2つの真実を暴くべき立ち向かっていきます。
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■「殺人犯はそこにいる」感想


 
 本書は「調査報道のバイブル」と言われていますが、それ以上に「人間としてのバイブル」と言えます。

 証拠の捏造、事実の歪曲・・・本書は冤罪を生む構造を、実に細かく解説。

 警察と検察による「事実の捻じ曲げ・つくりかえ」には、驚くとともに怒りを覚えます。
 
 最初に捕まえた男性が犯人でないとわかりそうな検査結果が出ると、そこから目をそらし、どこまでも言い逃れ。
 なかでも呆れたのが、証拠のトリミングです。

 その工作は、「無実だったかもしれない男性が、すでに死刑に処された」という最悪の事件で起こります。

 検察側が法廷に提出したDNAの鑑定写真がトリミングされ、警察・検察にとって都合の悪い部分がカットされていたのです。

 本書では、科学的な鑑定から、被害者遺族の言葉、様々な証言など実に多方面から、「事実にねじまげ」を徹底究明。

 「これが日本の司法なのか? こんなことでは、どんな人も死刑台に乗せられてしまうではないか!」という不安が、心の底からわきあがり、全身がブルブル震えてきます。

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 さらに本書で注目したいのは、冤罪は、元容疑者はもちろん被害者遺族をも激しく傷つけることです。

 北関東連続幼女誘拐殺人事件の被害者遺族は、逮捕された男性が無実である可能性が濃厚と知り、検察官にこう諭します。

 「ごめんなさいが言えなくてどうするの」


 そう、被害者遺族は誰でもいいから捕まえてほしいなんて、思ってはいないんです。

 たとえ事実がわかったとしても、娘の命は還ってこない。
 それはわかってる、わかってるんだけど、「私たちは真実を知りたい」。

 他に被害者が出るのは許せない、そして、愛するわが子に手をかけた人物が平然と生きているなんて許せない。

 とにかく誰でもいいからとっつかまえれば、被害者遺族の心が治まるものではありません。

 自分の大切な人が殺された事件を、いい加減に扱われ、誰かの名誉のために勝手にねじ曲げられ、無辜の市民が長年刑務所生活を強いられる。

 冤罪を生む構造は、被害者遺族を何重にも傷つけることになるのです。

 本書を読むと、真実を暴く・・・著者の言葉を借りれば「小さな声を聞く」ことの重要性が「これでもか」というほどわかります。

 また、本書は冤罪事件だけでなく、「犯人がそこにいたのに捕まえられず、最悪の事態に至った」ケースも解説。

 埼玉県桶川市のストーカー殺人は、清水氏らの尽力により、ストーカー犯や彼らのグループがわかっていました。

 しかし被害者や、記者たちの涙の訴えは届かず、被害者女性は無惨にも殺されてしまいます。

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 「殺人犯はそこにいる」のに、捕まえようとしなかった。
 犯人を捕まえたつもりが、「殺人犯はそこにいる」。

 本書は、杜撰な捜査や証拠・事実のねじ曲げ、それらの隠蔽により「本当の殺人犯は、今この瞬間にもそこにいる」事実をありありと浮き上がらせています。

 これが怒りと悔しさなくして、読むことができるでしょうか。

 私たちは、メディアで報道される「大きな声」しか聞くことはできないかもしれません。
 でも、もし何か疑問がわきあがったら、「小さな声」を「聴く」。
 その姿勢を持ちつづけないといけないんですね。
 
 小さな声を聞き逃すこと、そもそも聞こうとしないことは、かくも恐ろしい結果を生むのですから。

 「殺人犯はそこにいる」は、社会の一員として生きる人間として、必読の一冊。
 1人ひとりが「小さな声」に耳をすませて生きていれば、大きな悲劇を生まずにすむかもしれません。


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アコチム

Author:アコチム
仕事・家事・育児の合間に文字を楽しむ、兼業主婦の備忘録です。
本の評価は以下のとおり(2015年10月~)
★★★★★=読むと一生幸せでいられます。
★★★★☆=読むと1年間幸せでいられます。
★★★☆☆=読むと1週間幸せでいられます。
★★☆☆☆=これ以下の本は載せません。

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