誰かを愛せるって、何て幸せなんだろう。「僕と妻の1778話」眉村卓。

評価:★★★★★

負けるな。
心を明るく朗らかに。
柔和な顔をして。
ひきつっていない本物の柔和な顔をして。
進め。
心を明るく朗らかに。

(本文引用)
______________________________

 読み終えた後、心の中がシーン・・・となりました。

 舞台が終わり、ガランとした劇場のように。
 雪が降り積もり、人も車も通らなくなった街のように。

 大切な人を永遠に亡くすということは、ここまで辛く空っぽな気持ちになるのか、とただただうなだれ、一呼吸置いた後、涙がボタボタとこぼれました。

 そしてひとしきり泣いた後、不思議と心の中に太陽の光がさしました。

 「いつかは別れてしまうけれど、それでも誰かを愛すること、愛せることは途轍もなく幸せなことなんだ」。

 心からそう思えたからです。



 人は皆、生まれてきた瞬間に、銃口のように死に向かって歩んでいきます。
 それならいっそ生まれてこなければよかった。そうすれば悲しみなんてないのに、などと思ってしまうこともあります。

 でも「僕と妻の1778話」を読んだら、「やはり生まれてきて良かったんだ」と確信をもって思えるようになりました。

 たとえいつかは皆死んでしまっても、生きていたことは絶対に無駄なことではない。愛したことは決して無駄ではない。
 
 著者・眉村卓さんのつづったショートストーリーと、眉村さんの思いは、そんなことを教えてくれました。
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  「僕と妻の1778話」は、読書芸人カズレーザーさんが薦める「妻に捧げた1778話」の姉妹品(のようなもの?)。

 本書では1778話のうち52話を収録。

 余命いくばくもない奥様のために、ショートストーリーを作っては読み聞かせた経緯をつづっています。

 第1話から追っていくと・・・命とはまるで砂時計のようだな・・・と儚さを感じずにはいられません。

 最初はユーモアのあるSFエッセイで、奥様も楽しんで読まれています。
 
 でも徐々に、エッセイの内容が現実味を帯びていきます。



 たとえば524話。
 パンを買おうとドアを開けると、そこは暴風雨というお話です。
 主人公には借金もあり、青息吐息の状況です。

 そこで主人公は語ります。
 

 頑張るだけは、頑張らねばならぬ。
 心を明るく朗らかに。
 心を明るく朗らかに。



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 そして842話。
 これは列車の衝突など、最悪の事態を考えたSFエッセイです。

 最悪の事態を常に考えておかなければならないのなら、それはキリがないだろう、という話になるのですが、そこで登場人物は語ります。

 「そういうことだろうなあ。そんなにたくさんあるとなれば、もうどうでもいいような気がしてきたよ。そうなのだ。何が起ころうとなるようになれ、なのだ。何かあったらそのときに最善を尽くせばいいんだ。それだけでいいんだ。ぼくはもう、何も怖くないぞ」


 そして1500話を越えた頃から、眉村さんご自身に疲れが見え始めます。
 読み手としても、「ああ、いよいよなのか」と読むのが辛くなってきます。

 そして最終話は、奥様にいちばん負担のかからない方法で物語をつづります。

 ・・・何かもうね、こういうのを読んでしまうと、「誰かを思う」って人間(とは限らないけれど)のもつ最高の能力だな、って思います。

 特別な才能とか特技とか名誉も何もなくていいから、とにかく誰かを愛する力だけは持っていてほしい。
 
 そう、子どもに語りかけちゃいました。

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 だからこの本は、絶望をいったん通り抜けて、希望を見せてくれる一冊。

 この世に生まれてきたこと、誰か愛せる人を見つけたこと、出会えたことは、何の見返りもないかもしれないけど・・・それだけで素敵なことなんだなぁと心から思わせてくれる宝物のような本です。

 実は最近、私たち夫婦も「寄る年波」を感じさせる一件がありました。

 ショックは受けましたが、それが頭をもたげるたびに、私は眉村さんの言葉をつぶやきます。
 

 心を明るく朗らかに。
 心を明るく朗らかに。


 本書を著してくれた眉村卓さん、そして本書と出会わせてくれたカズレーザーさんに、心より御礼申し上げます。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
仕事・家事・育児の合間に文字を楽しむ、兼業主婦の備忘録です。
本の評価は以下のとおり(2015年10月~)
★★★★★=読むと一生幸せでいられます。
★★★★☆=読むと1年間幸せでいられます。
★★★☆☆=読むと1週間幸せでいられます。
★★☆☆☆=これ以下の本は載せません。

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