フランスで文学賞受賞!ドリアン助川「あん」を読み、あの面接の意味がようやくわかった・・・。

評価:★★★★★

 闇の底でもがき続けるような勝ち目のない闘いのなかで、私たちは人間であること、ただこの一点にしがみつき、誇りを持とうとしたのです。
(本文引用)
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 フランスで「読者が選んだ文庫本大賞」を受賞!
 その一報を聞き、遅まきながら読みました。
 柔らかい筆致で非常に読みやすく、でも含まれている内容は地球より重い・・・そんな素晴らしい小説でした。
 
 「よい小説」「心に残る小説」「ずっと取っておきたい小説」「大切な人に薦めたい小説」等々、浮かぶ言葉は色々ありますが、なかなかこの作品の価値に見合うほどの表現が浮かびません。
 うーん、これは困った。

 でも私はこの小説を読み、ある出来事を思い出しました。
 それは昔、あるレコード会社の採用面接で、ドリアン助川さんとお話しした時のことです。



 ドリアンさんは、ズラリと並んだ5人の学生に、こう問いました。

 「このなかで、いちばん体力があると思うのは誰ですか?」

 その時、私は愚かにもこう答えてしまいました。

 「私だと思います」

 実はそれからずーっと、その時の答を私は恥じ、悔いています。
 屈強な男子学生もいるなかで、最も体力があるのが私であるはずがないんです。

 なぜ「私ではなく、隣にいる方だと思います」などと正直に答えなかったんだろう、とずっと後悔しています。
 
 そして今、この「あん」を読み、ドリアン助川さんの真意や、私の悔いの中心がようやく見えてきました。

 あくまで憶測ですが、ドリアンさんは、学生同士を競わせるつもりはなかったのでしょう。
 「世界にたった一人しかいない自分を肯定できるか。世界にたった一人しかいない他人をも肯定できるか」
 それを知りたかったのではないでしょうか。

 そして私が「自分がいちばん体力がある」と答えてしまったことを恥じているのも、「自分本位で他人を認めることができなかったから。自分だけの良さ、他人ならではの良さに目を向けることができなかったから」だと、本書を読み気づきました。

 長い時を経て、今、この答えにたどり着き、人生の大きな課題をひとつ乗り越えた気がします。
(ドリアン助川さん、私の推測が間違っていたらすみません)
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■「あん」あらすじ



 主人公の千太郎は、和菓子店「どら春」の店長。
 どら焼きを売っていますが、商品への思い入れはほぼゼロ。

 適当に作って適当に売って、いつか他の仕事に就きたいと考えています。

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 ある日、「どら春」に一人の老婆がやってきます。
 老婆の名は徳江。

 徳江は千太郎に「私を雇ってほしい」と懇願。
 実は徳江は、あん作り50年の大ベテラン。
 徳江の作るあんは極上の味わいで、徐々に「どら春」は行列のできる店となっていきます。

 しかしある日を境に、「どら春」は閑古鳥が鳴くように。

 それは徳江に関する、ある噂のせい。

 徳江は、日本が抱える、ある差別を受け続けた女性だったのです。

 ほどなくして徳江は退職。

 千太郎は失意の底に沈みますが・・・?
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■「あん」感想



 「あん」を読んだ人のなかには、この本を思い出した方も多いのではないでしょうか。

 遠藤周作著「わたしが・棄てた・女」です。

 何の罪も落ち度もないのに、病にかかっただけで人間であることを否定され、世間からゴミのように棄てられる。

 そんな差別が、現実にはあります。

 今この瞬間にも、「なぜ自分だけがこんな目にあわなければいけないのか」と、部屋の窓から世の中を眺めている人がたくさんいます。

 そしてそんな人々の存在をタブー視する風潮が、世間にはあります。



 「わたしが・棄てた・女」と「あん」は、そのタブーをどこまでも優しく丁寧に描いています。

 刺激的な内容ではなく、あくまで優しく、穏やかに、誰も責めることなくタブーを描く。

 これはたいへん勇気のいる行動ではないでしょうか。

 ドリアン助川さんは、先の面接のエピソードも含め、常に「人間は1人ひとり、必ずこの世に生まれた価値がある」「その人ならではの素晴らしさがある」ことを心にとめて生きておられるのだと思います。

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 そんなドリアンさんだから、タブー視される問題を題材にすることなど何でもないのかもしれません。

 でもだからこそ、私は「あん」を評価したい。

 どんな状況に陥ろうと、人間は一個の人格も尊厳も夢も希望もある人間であり、それを皆、忘れてはならない。

 そう声を上げる勇気を、ドリアンさんは「あん」を通して、私たちにくれているような気がします。

 フランスの人たちが、この「あん」をどのように受け止めたのか。
 ぜひ生の声を聞いてみたいな。

 世界中どこにでも、「罪のない人々の人格・人生を否定する闇」が潜んでいるのかもしれませんね。

 生きる希望が持てる、世界に一人しかいない自分を好きになれる、素敵な一冊でした。
  
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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
仕事・家事・育児の合間に文字を楽しむ、兼業主婦の備忘録です。
本の評価は以下のとおり(2015年10月~)
★★★★★=読むと一生幸せでいられます。
★★★★☆=読むと1年間幸せでいられます。
★★★☆☆=読むと1週間幸せでいられます。
★★☆☆☆=これ以下の本は載せません。

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