「僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう」。あのスーパースターにも不安な「あの頃」があった。山中伸弥・羽生善治・是枝裕和・山極壽一・永田和宏

評価:★★★★★

 何か物事に挑戦していくとき、ただ結果だけを求めていると、どうしてもうまくいかなくて、苦しくなってしまうことがあります。ですから、そのプロセスの中で、「ああ、これってすごい! おもしろい!」とか、「やる価値があるなあ」といった感動を見つけられるかどうか。それが、挑戦し続けていくときの大きな原動力になると思います。
(羽生善治氏の講演より)
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 人生は1人ひとり違う――当然のことですが、何て素晴らしいことだろう。

 本書を読み、「1人に1つ、自分だけの人生がある」ということに気づき、心が震えました。

 「僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう」に登場するのは、皆さん各界のスーパースターですが、誰も自分をスーパースターなどとは思っていないことでしょう。

 ただ、自分の人生を懸命に生きた結果が、世に出やすい種類の仕事に結びついていた――本書を読み、そんな印象を持ちました。

 世界に1人しかいない私、そんな私の人生はたった1つ、そのたった1つの人生を生きられるのは私しかいない。



 「僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう」は、改めてそんなことに気づかせてくれる素敵な一冊です。
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 本書に登場する「僕たち」は、ノーベル賞受賞者・山中伸弥氏、棋士・羽生善治氏、映画監督・是枝裕和氏、京都大学学長・山極壽一氏。
 各章の前半は「僕たち」1人ひとりの講演で、その後、永田和宏氏との対談が収められています。
 対談をナビゲートする永田和宏氏は、京都大学名誉教授の科学者でありながら、歌人としても活躍されています。

 対談のなかで山中氏は、iPS細胞発見の経緯や、科学者としてやっていけると感じた瞬間などを披露。
 是枝監督は映像の世界に飛び込みながらも、どうすれば映画監督になれるか模索していた日々を切々と語ります。
 そして山極学長は、ゴリラの生態から人間社会の不思議について生き生きと解説します。

 なかでも私が面白く読んだのは、羽生善治さんとの対談。
 今、藤井聡太四段が話題になっていることもありますが、天才・羽生善治の意外な悩みや、将棋世界の奥深さ、世代間の違いなどについて語られており、何度も「そうなんだ~!」と大きくうなずきながら読みふけりました。

 たとえばこれは藤井四段にも重なるかと思いますが、中学生からプロ棋士として仕事をすることについて、かなり詳しく書かれています。

永田 中学生の頃から、新幹線で遠征して戦っていたわけですからね。
羽生 はい、勤労中学生で、働いていました(笑)

 

羽生 十六歳ぐらいのことですが、夜中まで対局をすると電車がないので、始発を待って家に帰るわけです。そうすると、通勤通学の人たちがこれから出かけるという中を、自分は逆に歩いて家に帰っていく。なんだか完全に自分は道を踏み外して、違うところにきちゃったんだという実感がありました(笑)

 小5で師匠に入門し、とにかく将棋一筋。
 羽生以前、羽生以後と言われるほどの大物棋士なだけに、傍から見ると「天職に就けて羨ましい」なんて感じてしまいます。

 でも本書を読むと、それなりの悩みがあったことがわかります。

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 周囲が進路で迷うなか、自分は迷うことがないという疎外感、楽しんで駒を動かす楽しさを捨てなければならなかった寂しさ、厳しさ。

 天才棋士が明かす、「何者でもなかった頃」の気持ちはちょっと意外なものです。
 でも羽生さんの言葉からは、人生の厳しさと同時に人生の面白さも感じ取ることができます。

 また、羽生さんは対局中についても、プロならではの思考を披露。

 何と自信を持って打てる手よりも、確信が持てない手のほうがいい手であることが多いのだとか。

 その理由については本書にじっくりと書かれていますが、これを知ってから将棋を観るといっそう面白くなります。

 藤井君と佐々木勇気五段との対局も、「お二人ともこう考えていたのかな?」なんて思いを巡らせると、また見方が変わってきますよ。

 羽生さんは講演や対談のなかで、幾度か「長いスパンで物事を考える重要性」について語られています。
 それは、本書全体を象徴する言葉です。

 すぐに結果を求めず、目の前の結果に飛びつかず、自分を冷静に客観視して長考する。
 あらゆる策を考えたうえで「これ、大丈夫かな?」という手を打ってみて、失敗も成功も糧にする。

 羽生さんをはじめ、本書に登場するスーパースターたちからは、そんな「挑戦する勇気」が見えてきます。

 進路に迷ったり、今熱中していることに自信が持てなかったりしたら、ぜひ本書を手に取ってみてください。

 たったひとつの自分の人生を生きるパワーが、体の奥底からわいてきますよ。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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