岩波新書「裁判の非情と人情」を読んで裁判を身近に感じよう!

評価:★★★★★

  裁判官は、出した紅茶も飲んでいかない変な人たちだと思うかもしれないが、そこのところは、十分理解してもらいたいものだ。
(本文引用)
______________________________

 SNSなどで、しばしば見かけるのが「納得のいかない裁判」のニュース。

 「あんなことを引き起こしたのに、懲役3年なんて・・・」
 「なぜ執行猶予がつくの?」
 「犯人の1人が、法曹界の重鎮の子どもらしいよ」

 等々、世間が思っていたよりも軽めの判決が下されるとSNS上は怒号の嵐。
 真偽のほどがわからない噂や憶測もくっついて、怒りが膨張するにつれて、「裁判」や「裁判官」に対する信用はしぼんでいきます。
 そんな今、おすすめなのが「裁判の非情と人情」



 長年にわたり刑事裁判に携わった裁判官・原田國男さんによる、「裁判官」としてのエッセイです。
 様々な裁判を通して、裁判官に怒りを感じているならば、ぜひこの本を読んでみてください。

 人間が人間を裁くとは、どれほど厳しいものか。そして、その裏にどれほどの温かさが隠されているのか。

422a2268e110a28c3ece0b7bb65c6bf5_s.jpg


 本書を通してそれを知ることで、カッカとした頭をクールダウンさせることができるでしょう。
 そうして頭が落ち着けば、噂や憶測に惑わされず、より事件・裁判の本質に迫った判断を自分なりに下すことができることでしょう。
______________________________

 本書は、裁判にからむ「人の心」について書かれています。
 公正な裁判を行なうために、裁判官はどれほど心をニュートラルに保つか。そして原告と被告、両者の人生や未来について、どれほど考えて考えて考え抜いて法廷の扉を開け、席についているか。

 著者は、ややユーモアを交えた静謐な筆致で、「裁判官」としての思いを語ります。

 なかでも印象的なのが、「紅茶を出されたら・・・・・・」

c859d4ac191d1f424eee2f58e6ac801f_s.jpg


 「紅茶を出されたら・・・・・・」は、裁判の公正さにまつわるエピソード。裁判に携わる人物は、公正な裁判を行うために、いかに気を配っているかを語ったものです。

 著者は新任判事補時代、被告の実家に赴き、被告の家族や先生らから様々な話を聞きます。
 そして帰ろうとしたところ、被告の家族は「食事を用意しているので、ぜひ食べていってほしい」と頼みます。

 しかし著者は、紅茶一杯出されても断るべきと教わっている身。
 申し出を断り、部屋を出ようとしたところ、一気に険悪なムードに・・・。

 そこで老練な弁護士が助け船。
 なぜ申し出を断ったのかをていねいに説明したところ、被告の家族たちの表情はほぐれ、自分たちの姿が見えなくなるまで手を振ってくれていたそうです。

 このエピソードは、本書のタイトル「裁判の非情と人情」を実によく表しています。

 自分の子どもが事件を起こしてしまった。それだけでも大変な心労なのに、裁判官をもてなし、しかも断った理由を聞いたら、いつまでも手を振って見送ってくれた・・・。

 公正な裁判を行うためには、尋常ではない緊張感と厳格さが求められます。
 それが頭ではわかっていても、なかなか心がついていかないのが人間というものではないでしょうか。

 その頭と心のバランスをとることで、一人でも多くの人の未来があかるくなる。
 このもてなしのエピソードは、(その裏には辛く悲しいことがあったことと思いますが)そんな希望を感じさせてくれるものです。

7f1c9bc715f39ecafbfc95f73a447da1_s.jpg


 それだけに、証拠の捏造などは絶対に許されません。

 証拠の捏造や偽証、冤罪等々「公正な裁判」を傷つけることは、原告、被告、そして両者に関わる人々全員の人生を破壊することになるのです。

 本書には、そのような事態を起こさないための血のにじむような努力がつづられています。
 法曹界に身を置いていなくても、社会の一員として読んで決して損はない内容といえるでしょう。

 裁判員裁判制度が始まり、いつ自分が人を裁く立場になってもおかしくはありません。
 また、ネットやSNSの普及で知らず知らずのうちに、無辜の市民に社会的制裁を下してしまうこともあります。

 誰も、他人の人生を壊す資格も権利もありません。

 「裁判の非情と人情」は、そんな当たり前のことを改めて認識させてくれます。

 裁判の教科書、いえ、人生の教科書にもなりうる一冊です。

詳細情報・ご購入はこちら↓


関連記事
プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

最新記事
シンプルアーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
RSSリンクの表示
QRコード
QR

書評・レビュー ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村
カテゴリ
広告
記事更新情報
リンク
広告