冬が胸に来た!吉川英治文学賞受賞・藤田宜永「大雪物語」

評価:★★★★★

 “雪解け”にはまだまだ時間がかかるだろう。
しかし、とりあえず細い道が開通したには違いなかった。

(本文引用)
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 「冬が胸に来た。」「答えは雪に聞け。」、そして「ぜんぶ雪のせいだ。」
 そんなJR SKISKIのキャッチコピーを思い出しながら読んだ。

 本当に、冬が胸に来る物語だ。そして、あの人を好きになったのも嫌いになったのも、また好きになりそうになったのも、ぜんぶ雪のせい。そう言いたくなるストーリーだ。

 そしてその答えは、全て雪が知っている。

 雪は何もかも隠してしまうが、とけると何もかもが露わになる。

 雪の前では、人は心身共に無力。

 そう痛感させられる、冷たくて痛くて、思い切り温かい短編集だ。






●あらすじ


 舞台は長野県K町。
 別荘地として知られるが、冬は極寒の地となる。

 そんなK町を、ある日、未曽有の大雪が襲う。

 交通はストップし、除雪車も入れず、完全に生活が止まったK町。

 そこに交差する人間たちは、誰もが訳ありだった。

 老女ばかりをねらい、ひったくりを重ねる青年。
 死体を運ぶ仕事をする男。
 大雪のなか、行方不明になった飼い犬を捜す少女。
 雪で動けなくなった人たちを助ける花屋。そこに現れる元恋人。
 断絶した親子、夫婦・・・。

 果たして、彼らに雪解けは来るのか。



●「大雪物語」のここが面白い!


 まず、大雪による影響の大きさに驚かされた。腰が抜けたと言っても過言ではない。

 本書は、著者・藤田宜永氏が実際に大雪に見舞われ、その経験をもとに書いたという。

 大雪で除雪車も来られないと、ここまで生活に困るものかと慄いた。

 しかし、そんなギリギリの状況だからこそ見えてくるものがある。
 大雪という特殊な状況だからこそ叶う出会いがあり、ギリギリの状況だからこそ優しくなれたり、何もかも許せるようになったりする。

 極限の状況に置かれ、人間同士が裸でぶつかり合えば、浮世の悩みなど全て解決する。
 K町の混乱は、そんなことを教えてくれるのだ。

 なかでも印象的なのが、「雪の華」。
 K町で花屋を開く男性の物語だ。

 大雪のなか、遭難さながらに飛び込んでくる人々を、花屋の男性は助ける。
 しかしその中に、元恋人の女性がいた。

 男性は修学旅行中の学生たちの世話をしながら、妻に悟られないよう彼女も助けるのである。

 この物語は、大雪だからこそ実現した再会である。
 そして、その後の心情の吐露も、大雪の中だからこそ思わず口をついて出たものであろう。

 雪は全てを覆いつくし、町の音を静かにする。そして、夜を明るくする。
 それは時として、自分の中でずっと隠していた気持ちや、知りたくなかった事実をも暴いてしまう。

 「雪の華」には、そんな雪の危うさが描きつくされている。

 雪の魔力というものを、ここまで感じられる物語はなかなかない。
 まさに「冬が胸に来た!」と胸をギュゥッと押さえたくなる物語だ。
 

●まとめ


 大雪で館に閉じ込められ、そこで殺人事件が起こる・・・なんていうミステリーは、昔からよくある。

 しかしこれらの物語は野外も屋内も関係なく、人間が雪の魔力に取り込まれてしまう。

 大雪で何もかもが止まり困窮すると、人は人とつながろうとする。
 そんな人間の本能のようなものを、この物語に見た気がする。

 大雪だからこそ閉ざされる道もあれば、大雪だからこそつながる道もある。
 一度閉ざされた心の道は、雪でいっそうふさがれてしまうのか。それとも雪解けとともに開通するのか。

 偶然が偶然を呼び、その道が開かれる過程をぜひ最後まで見守っていただきたい。
 

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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