文庫版登場!「波形の声」。長岡弘樹は泣けるミステリーの帝王だ!


評価:★★★★★

 「私は犯人ではありません。はん」
 犯人は――そう続けようとした言葉を、梢はすんでのところで飲み込んだ。

(本文引用)
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 「先が読めないミステリーをじっくりと味わいたい」
 「とにかく泣ける小説を読みたい」

 そんなぜいたくな願いを同時に叶えてくれるのが、長岡弘樹だ。

 先日、「時が見下ろす町」でボロッボロに泣いたと思ったら、また泣かされてしまった。

 おとなしくて不器用な子どもと、何とか心を通わせようとする者。
 家族を支えているつもりが、実は支えられていたことを知る者。
 勝つことばかりを考えて、大切なものを見逃していたと気づく者。



 本書に収められているストーリーは、どれも真犯人はまるっきり同じ。
 その犯人とは、「心の曇り」だ。



●あらすじ


 本書は7篇からなる短編集。連作というわけではなく、それぞれが完全に独立した物語だ。

 表題作「波形の声」は、小学校が舞台のミステリー。
 補助教員の谷村梢は、中尾文吾という男性生徒を気にかける。おとなしく、いじめを受けやすいタイプの生徒だからだ。

 ある日、文吾は学校で堆肥の中に突き落とされる。梢はその事件を受けて、文吾の家を訪問しようとする。
 しかしその頃、文吾は自宅で何者かに襲われ、瀕死の重傷を負う。

 梢は警察や保護者たちに、犯人ではないかと疑われるが・・・?



●「波形の声」のここが面白い!


 とにかくこの短編集は、心のひだを震わせる。ミステリーでここまで泣かせるというのは、人情派ミステリー作家として定評のある著者ならでは、であろう。

 なぜこの短編主は、ここまで泣けるのか。
 
 それは驚くべき真相に加えて、小出しの伏線の全てが「泣かせる」材料となっているからだ。
 
 それは、助走のうまい陸上選手のようなものかもしれない。
 助走がうまいほど、飛んだ瞬間の爆発力は凄まじいものになる。

 本書に収められているミステリーは、どれも助走が巧みであるため、真相が明かされた瞬間の衝撃が大きい。つまり、それだけ「メチャクチャ泣ける」のだ。

 たとえば「波形の声」は、事件現場から「谷村先生」という声が聞こえたことから、梢が疑われる。
 その真相は全く予想もつかないものだが、それまでに小さな伏線がチョコチョコと存在する。
 そんな小さな小さな伏線が、真相につながっていたとわかった瞬間、誰もが滂沱のごとく涙を流すことだろう。

 第5話の「黒白の暦」も良い。

 秋穂と理花は、ともに食品会社に長年勤める女性だ。二人とも優秀な社員だが、秋穂は理花にライバル意識を持っている。
 実は秋穂は、理花よりも仕事が上手くいった日には白星、逆の場合は黒星をつけつづけているのだ。
 しかし秋穂は、仕事で大きなミスをしてしまう。

 この物語は、日常のちょっとしたミステリーが描かれている。警察沙汰になるような事件が描かれているわけではない。

 しかし、本書を読んでいると、凶悪事件であろうとなかろうと、「事件」の真犯人は同じということがよくわかる。
 
 犯人は、人間の形をしているとはかぎらない。真犯人は常に「人の心」である。
 
 そんなことを、この短編集はじっくりと教えてくれる。

 だから、このミステリーは泣ける。
 人間とは何と無様で美しい生き物なのか。そんなことを突き付けられ、何だか泣けて仕方がなくなるのだ。

 

●まとめ


 この「波形の声」は、究極の「人間賛歌ミステリー」と言えるだろう。

 どんな事件も犯人は、人を恨んだり妬んだり蔑んだりする心である。

 しかし、人間にはそれを剥がす力がある。
 それを全て剥がした先に、事件の真相は存在する。
 
 そしてすべてが明かされた後、生身の人間の心とはこんなに美しいものなのかと、思わず目を細める。

 本書は、そんなミステリー集だ。

 「謎解きで頭をスッキリさせたい」
 「泣いて泣いて、心を浄化させたい」

 そんな欲求が少しでもあれば、ぜひ手に取っていただきたい一冊である。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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