「沈黙法廷」は警察小説好きも法廷ミステリー好きも満足の一冊。

評価:★★★★★

 「あなたにはたしかに黙秘権があります。でもあなたの黙秘で守られるものが、この裁判の有罪判決よりも重大なものだということがありますか?」
(本文引用)
______________________________

 警察の捜査や取り調べを追う警察小説、法廷で真実の行方を追う法廷ミステリー。 どちらも面白いが、いっそ一度に両方とも味わえたら、これほど幸せなことはない。佐々木譲の「沈黙法廷」は、そんな夢を叶えてくれる傑作だ。

 裕福なお年寄りが次々と不審死を遂げるなか、捜査線上に浮かんだのは家事代行業の女性。

 裁判で、彼女が突然沈黙したのは、いったいなぜなのか。


●あらすじ


 事件が起きたのは、東京都北区。いくつかの不動産を所有する小金持ちの老人・馬場が、絞殺体で発見される。



 馬場の家には、様々な人間が出入りしていた。幼稚な放蕩息子、デリヘル譲、お金を持っていそうな老人ばかりを狙う詐欺まがいのセールスマン、そして、家事代行サービスの女性・山本美紀。
 警察が捜査を進めるうち、かつて山本美紀が担当した顧客が次々と変死しているという事実を突き止める。

 それらの事件は迷宮入りしているが、それらの事実から、警察は馬場を殺した犯人を山本美紀と断定。物証のないまま山本を逮捕する。
 
 山本は取り調べでしっかりと無実を訴え、裁判でも明瞭な口調で答えるが、ある時を境に突然、口を閉ざす。
 果たして山本美紀は強盗殺人犯なのか?それとも・・・?


●「沈黙法廷」のここが面白い!


 この「沈黙法廷」の魅力は、まず読みやすさにある。

 557ページという大ボリュームで、しかも警察小説プラス法廷ミステリーという重厚な内容だ。それだけで「自分には読み切れないのではないか」と及び腰になってしまうかもしれない。
 しかし、本書の筆致は重すぎず軽すぎず非常に読みやすいので、557ページが全く苦にならない。

 そして、ストーリー展開もわかりやすい。

 警察が、なぜそのような推理・捜査をするのか、弁護士や検察側はなぜそのような主張をするのか。

 そのような、登場人物たちの言動の背景が明確に伝わってくるため、内容がスイスイと頭に入ってくる。かといって、内容の重さはしっかりと保たれているから不思議だ。
 わかりやすさと読みやすさと深み。それらが全てバランスよく書かれているので、安心して物語に没頭できる。

 裁判の様子が一語一句もらさない勢いで、細かく描写されているのも見事。読んでいるだけで、裁判を傍聴している気分になれる。

 もちろん、内容の面白さも申し分ない。
 特に、事件そのものとは関係のない人物がじっくりと描かれている点がいい。

 事件当時、山本は高見沢という男性と交際しており、高見沢は結婚も考えていた。高見沢は山本を両親に紹介しようとするが、約束の日、山本が姿を見せることはなかった。
 彼は落胆するが、事件の一報をテレビで知り、裁判の傍聴に駆けつける。
 その彼の一途さが「山本美紀」という女性を物語る一助となっており、物語にいっそう深みを与えている。
 
 裁判員裁判であるこの事件では、被告の人間性というものが大きく影響する。
 高見沢はただの一傍聴人にすぎないが、彼の純粋な思いは、読者がこの事件の行方を推理するうえで不可欠の要素となっている。
 そんな、事件とは直接関係のない人間の思いが、有罪・無罪の大きなカギを握っている点が本書の魅力だ。


●まとめ


 「沈黙法廷」は、警察小説と法廷ミステリーの両方が味わえる小説だが、それに加えて現代の世相というものも見事に映し出している。つまり、社会派小説としても面白く読める作品だ。

 山本美紀は高見沢との交際で、「中川綾子」という偽名を使う。
 その「中川綾子」は、山本美紀が家事代行をする際の仲介者ともなっていたという。

 果たして「中川綾子」とは山本美紀なのか、それとも別の誰かなのか。

 最後の最後の最後になって、ようやく事件の真相が見えてくるが、その「中川綾子」だけは謎に包まれている。
 ミステリーファンでもミステリーファンでなくても、その「謎の二重構造」には思わずシビれ、そして大いに考えさせられることだろう。
 今の社会は、こんなに腐っているのかと。

詳細情報・ご購入はこちら↓

関連記事
プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

最新記事
シンプルアーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
RSSリンクの表示
QRコード
QR

書評・レビュー ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村
カテゴリ
広告
記事更新情報
リンク
広告