「八月は冷たい城」 恩田陸 絵:酒井駒子 感想

評価:★★★★★

 もう一人。もう一人、いる。この内側に。僕たちと一緒に。
(本文引用)
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 「十二人の死にたい子どもたち」と同時並行で読んだが、奇しくもまるでリンクしあうような物語だった。

 ある目的にもとに集められた少年たち。謎の「もう一人」の少年。あの子を傷つけたのは、いったい誰か。

 そのような点で、「十二人の死にたい子どもたち」と「八月は冷たい城」は共通しているように感じられ、同時に読んだことで思わぬ相乗効果を得ることができた。

 まぁ、それは偶然の産物であるとして、本書は同時刊行「七月に流れる花」と一緒に読むことは必須であろう。
 
 「七月に流れる花」で登場した「みどりおとこ」はいったい何者なのか。そして、あの「夏の城」はどのような構造になっており、子どもたちはどのような気持ちで過ごすのか。
 それを理解するには、まず「七月に流れる花」を読んでいることが前提となる。

 ちょっと懐は痛むが、2冊同時に読むことで味わえる「恩田陸×酒井駒子ワールド」の深みは、OH!値段以上である。
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 幸正、光彦、卓也や耕介らは「夏の城」でひと夏を過ごす。
 しかし、そこでは彫像が壊されるといったトラブルが起こる。

 次第に幸正たちは、「夏の人」-「みどりおとこ」に対する不信感を持ち始め、夏の城にいる意義を疑いはじめる。





 そして、夏の城にもう一人少年がいるのではないかという恐怖心に苛まれるようになる――。
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 「七月に流れる花」よりも、かなりミステリー色の濃い内容となっている。「七月――」からつなげて読むと、さらに「夏の城」の闇が心に迫り、読むだけで心臓が痛くなってくる。
 ちょっと、いや、かなり怖いかもしれないが、「七月--」から間をおかずに読まれることをぜひお薦めする。

 さらに、「八月--」では酒井駒子氏のイラストがいっそう大きく扱われており、視覚的にも非常に楽しめる。
 恩田氏による謎めいたストーリー展開と流麗な文章、そして酒井氏の絵とが合わさった本書は、小説というカテゴリーにはとうてい収まらない。これはもう芸術品である。

 講談社ミステリーランド第18回配本「七月に流れる花」「八月は冷たい城」
 頭も心も部屋も豊かに彩ってくれる名品である。

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