「帰郷」 浅田次郎   感想

評価:★★★★★

  「そりゃああなた、二十三年も生きたなんて考えるほうがおかしいですよ。二十三年しか生きられなかったんでしょうに」
(本文引用)
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 第43回大佛次郎賞受賞作。

 このような小説が書かれる世の中でありますように、そして、このような小説を読むことができる世の中でありますように。読みながら、そんなことを願っていた。
 なぜなら戦争当時は、この小説に書かれているような言葉を、決して口にできなかっただろうから。
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 本書は、戦争によって人生を捻じ曲げられた人間たちを描いた短編集だ。
 
 新妻と幼子を残して戦地に赴き、生きながらにして家族を失ってしまった兵士、子どもと行った遊園地で、戦争の恐怖がフラッシュバックしてしまう父親等、主人公はいずれも、心も体も人生そのものも大きな痛手を受けた者ばかりだ。



 本書を読んでいて印象的なのは、前述したように、当時は口にできなかった思いが随所で吐露されている点だ。

 お国のために息子が死んで、喜ぶ母親がどこにいる。子どもはできていないほうがいい。お前、この先生きていくつもりはあるのか。

 生死を他人の力によって理不尽に弄ばれ、生きる気力すら奪われる。当たり前に家族を築くことや家族を思うこと、そして未来を夢見るという感覚を忘れてしまう。
 この物語は、そんな戦争の真の恐ろしさをえぐり出すように描いている。戦争は、肉体の死だけでなく、心の死も確実にもたらすのだ。

 様々な形で、人々の人生を捻じ曲げ、殺していった戦争。
 
 これからも、このような小説が読まれ続ける世の中でありますように。

 ページを閉じた後、そう願いながら思わず合掌した。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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