「銀漢の賦」 葉室麟

 源五はうつむいて黙っていたが、やがて、くっくっ、と笑い出した。

 「お主とは、つくづく悪縁じゃのう」
 「そうか、力を貸してくれるか」
 「お主の命、使い切らせてやろう」
 源五は落ち着いて言った。最初からそのつもりだったのである。

 (本文引用)
______________________________

 「蜩ノ記」で2011年度(下半期)直木賞を受賞し、日本中を清廉な涙で包んだ葉室麟。

 根強いファンが数多く存在する葉室作品だが、そのなかに、「蜩ノ記」を上回る人気を誇る作品がある。
 2007年松本清張賞受賞作品「銀漢の賦」だ。

 銀色に輝く漢江、すなわち天の川のことを漢詩では「銀漢」という。
 「銀漢の賦」とは、そんな天の川輝く満天の星空を、共に見上げた男たちが詠う友情の物語である。 
___________________________

 月ヶ瀬藩の郡方・日下部源五と家老・松浦将監は、40年来の友人である。


 2人は少年時代から共に剣術や学問で研鑽を積み、互いに励ましあってきた。
 なかでも将監は、学問や武術はもちろん絵画や音楽にも優れ、その才気とひょんな縁から家老職へとのぼりつめる。
 一方の源五は、ただの鉄砲衆。
 度重なる洪水から村を救うため、共に井堰工事に尽力しつつも、かたや管理者かたや労働者という違いは、身分以上に2人の心を隔てていった。

 実は20年前、源五は将監に絶縁を言い渡していた。
 当時郡奉行だった将監の厳しい年貢の取立てから一揆が起こり、その先頭に立った農民が刑死させられたのだ。
 その農民の男もまた、少年時代に源五と将監とともに天の川を見上げた親友であり、その親友を死に追いやったことが源五は許せなかったのである。
hoshizora.jpg


 要職に就いて、人が変わってしまったのか・・・源五は将監に対し虚しさと怒りを覚えつつも、常に心のどこかで将監のことは気にかけていた。

 そんなとき、源五にとんでもない依頼が飛び込んでくる。

 将監を上意討ちせよ――――

 何と「将監を殺せ」というのである。

 そのとき城内では、藩主惟忠が江戸幕府に入閣するための、ある計画が進められていた。
 しかし、その計画に隠された真相を知る将監は、それに断固反対したため、「殿の幕閣入りを邪魔する不届き者」とみなされたのだ。

 絶縁したとはいえ、かつての親友を殺める命令を受け、悩み苦しむ源五。
 果たして源五は、将監を手にかけることができるのか?
_______________________________

 友情をテーマとした感動的な小説は数多くあるが、これほど滋味あふれる友情を、私は知らない。

 友の腹を切るか、自分の腹を切るか。
 
 行くも地獄、帰るも地獄の状況で源五と将監が選んだ道は、共に命を落とす可能性のある、このうえなく危険な茨の途である。正直に言って無茶だ。
 しかし、友のために命を使い尽くそうとするこの2人を、その体を流れる血一滴たりとも、友への愛と己の信念以外には無駄にしないと誓うこの2人を、誰が止められようか。
 そんな、全く利己心のない一直線な彼らの行動は、そのままストレートに読む者の心を動かす。

 あるとき、将監は源五にこうつぶやく。

 かつて狡猾な手口で権勢を振るい、孤独のうちに失脚した元家老・九鬼夕斎を引き合いに出し、自分と夕斎との違いがわかった、と言う。
 そしてその違いとは、 

 「わしには友がいた」

 ことだと。

 一時は出世に走り家老にまでなったものの、権力を得てからは虚無感を抱えていた将監。
 そんな日々を送っていただけに、40年の時を経て心から源五の存在の大きさを痛感し、人としての生き方に開眼したのであろう。

 前回ご紹介した「それをお金で買いますか」に、お金で買えないものとして「友情」が挙げられている。
 この源五と将監を見ていると、まさにそのとおりであると、大いに納得できる。

 損得で人と向き合う人間は、一時的には人が群がっても、気がつけば一人であり、
 損得無しで人と向き合える人間は、一時的には孤独でも、気がつけば友がいる。

 ありきたりな言い方で申し訳ないが、そんな大切なことを、この本は熱っぽく尚且つカラッと爽やかに伝えてくれる。
 説教じみたところが全くないせいだろう、読んでいて非常に気持ちが良い。
 もちろん、時代小説ならではの剣撃シーンや、藩政に渦巻く権力争いの描写等も申し分なし。

 傑作中の傑作である。

詳細情報・ご購入はこちら↓
【送料無料】 銀漢の賦 / 葉室麟 【単行本】

【送料無料】 銀漢の賦 / 葉室麟 【単行本】
価格:1,450円(税込、送料込)



他の葉室麟作品のレビューはこちら→「蜩ノ記」
関連記事

コメントの投稿

非公開コメント
管理者にだけ表示を許可する

「銀漢の賦」裏話

昨年6月葉室先生の母校西南学院大学での講演会で聴いた話です。ハムリン曰く「週刊誌にヌードグラビアがあると男性読者は楽しいでしょう。そう思いこの作品の中で男女の濡れ場を入れていましたが文芸春秋社の女性編集者にカットしてくださいと言われやむなく削除しました」と残念そうでした。う~ん「銀漢の賦」の濡れ場読んでみたかった。

それは確かに「裏話」ですね!

ひろ様

いつも貴重な情報を提供してくださいまして、どうもありがとうございます!
「銀漢の賦」・・・そんな裏話があったとは、思わず笑ってしまいました。
でも考えてみると、ちょっとそれを匂わせる(入浴シーンとか)場面もあったような気もします。
それは葉室先生と編集者の方とのやりとりの名残り・・・と捉えてもよろしいのでしょうか。

それにしても、お話をうかがっていると、葉室先生の講演はとても面白そうですね。
いつか行ってみたいです(^^)

NHK木曜時代劇

ハムリン作品が又、映像化されます。
先生自身も自作の中で一番好きと言われている「銀漢の賦」です。
NHK総合テレビ木曜時代劇「風の峠~銀漢の賦~」2015年1月15日20時から連続6回。
出演ー中村雅俊、柴田恭平、桜庭ななみ、中村獅童、麻生祐未、吉田羊他 楽しみです。

それは楽しみですね!!

ひろ様

いつも貴重な情報を、ありがとうございます。
「銀漢の賦」がドラマ化されるとは・・・あまりの嬉しさに思わず飛び上がってしまいました。

しかも柴田恭平さんが出演されるなんて(大好きな俳優さんです)、これは見逃せません。
中村雅俊さんと柴田恭平さん演じる「男の友情」(うっとり)・・・今から楽しみです。

どうもありがとうございます!

NHK木曜時代劇「風の峠~銀漢の賦」

「風の峠~銀漢の賦」のホームページが出来ましたよ。
いよいよですね。楽しみです。

個人的に、高橋和也さんが楽しみです。

ひろ様

いつも嬉しい情報をお届けくださいまして、ありがとうございます。


「風の峠~銀漢の賦」のホームページ、見ました!
個人的に、十蔵役の高橋和也さんが楽しみです。
高橋和也さんが善人役をやると、ほぼ間違いなく泣いてしまうので(素晴らしい役者さんになられたな、と感じます)。

中村雅俊さんと柴田恭兵さんが、男の友情をどう演じるのか、想像するだけでワクワクしますね。

放送の日を待ちわびたいと思います。

どうもありがとうございました。

大満足

先程、NHK木曜時代劇「風の峠~銀漢の賦」最終回を見終わりました。良く出来たドラマでしたね。中村雅俊、柴田恭兵の熱演、女優陣も良かった。吉田羊の「松浦様は鯉の滝登り、父上はナマズの泥もぐり」のセリフには笑ってしまいました。壁ドンもありましたね。桜庭ななみのラストでの美しさにビックリでした。
良かった・良かった。如何でしたか?

中村獅童さんの悪役ぶりが良かったです!

ひろ様

いつもありがとうございます。
「銀漢の賦」、終わってしまいましたね。
原作を読んでいたとはいえ、柴田恭兵さんの「わしに二度も友を見捨てさせるな」にウルッと来ました。

個人的には、中村獅童さんの小悪人ぶりが良かったです。
特に最後の往生際の悪さが、何とも言えませんでした。中村獅童さんには、これからもどんどん悪役を演じてほしいです。

どうもありがとうございました。
プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

最新記事
シンプルアーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
RSSリンクの表示
QRコード
QR

書評・レビュー ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村
カテゴリ
広告
記事更新情報
リンク
広告