「雪の鉄樹」遠田潤子  感想

評価:★★★★★

  「普通なら最低の人間に向かって、あんたは最低です、なんてわざわざ口にせん。黙って縁を切るだけや。それを言ってくれたんは、ほんまにあんたのことを思ってくれてるからや。そのことだけはわかっとき」
(本文引用)
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 何年かに一度、小説を読んで押しつぶされそうな思いになる。登場人物の罪の重さや、人間性の汚さと崇高さ、辛酸な人生、それを補って余りある幸福・・・それらが全てのしかかってきて、息ができなくなる。
 「本の雑誌」が選ぶ「2016年文庫第1位」に輝いた「雪の鉄樹」。それは、そんな小説だった。

 主人公の曽我雅雪は腕のいい庭師で、口コミで顧客を広げている。
 人柄も良く、20歳の頃から13年間、遼平という少年の世話をしつづけている。遼平には両親がなく、肉親は祖母一人だ。

 その背景には、あまりに凄絶な過去があった。
 雅雪の祖父と父は女性をとっかえひっかえしては家に連れ込む男で、曽我家は「たらしの家系」と噂される。それだけに怨恨トラブルが多く、雅雪も幼い頃からそのとばっちりを受けていた。



 雅雪が遼平の面倒を見続けているのも、それが理由だ。ただしそのきっかけとなった“トラブル”は、他のものとはレベルが違う。多くの人の人生を、完膚なきまでにズタズタにするものだった。
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 この小説は、その重大な「過去」が明かされるまでが長い。なぜ遼平の祖母が、そこまで激しく雅雪を憎むのか。雅雪は、「ある日にち」を指折り数えているようだが、それは何を待っているのか。
 それが明かされるまでが、実に長い。「早く早く!」と作者に詰め寄りたくなるほどだ。

 しかし、その「溜め」の長さが効いている。
 物語終盤に向けて、登場人物たちの謎の行動が、カードがパタパタパタとひっくり返るように合点のいくものとなり、却って頭に入りやすい。「こういう読ませ方もあるのか!」と、目の覚める思いで読みふけった。

 そして、告白とともに真相が明かされるにつれて、登場人物たちの心に変化が現れるのも良い。

 彼らが「良かれ」と思っていたことは、本当に相手にとって良いものだったのか。あの人は、自分を愛してくれていたのか否なのか。

 物語の背景は、目を逸らしたくなるほど非道なものだが、そこから生きる糧を見出していく彼らの姿は実に眩しい。
 小説を読む楽しさというのは、絶望も希望も知ることなのかもしれない。底なし沼のような絶望から、希望という名の稀少な砂金を見つけ出すことなのかもしれない。
 本書は、そんな読書の醍醐味をたっぷりと味わわせてくれた。天晴としか言いようがない。

 「2016年文庫第1位」というのも納得。いや、そんな称号では足りないほどの傑作である。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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