テヘランでロリータを読む  アーザル・ナフィーシー

評価:★★★★★  

 「感情移入こそが小説の本質なのです。小説を読むということは、その体験を深く吸いこむことです。さあ息を吸って、それを忘れないで」
(本文引用)
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 先日読んだ、西加奈子著「i アイ」で本書を知った。

 この本が登場する経緯は、こうだ。シリアで生まれ、裕福な夫婦の養子となったアイは、その恵まれた環境に悩み、事故や事件・災害で多くの人が亡くなるたびにそれを書き留めていく。
 それを知った親友ミナは、そんなアイの行動を「想像」ではないかと言う。そしてミナにとっての「想像」とは、この「テヘランでロリータを読む」を読むことだったと告白する。
 そしてアイは、この本を夢中になって読む。

 ここにおける「想像」とは、おそらく「他人の痛みや苦しみを、自分の痛み・苦しみとして捉える」ということなのかな?
 そう推測し、実際に「テヘランでロリータを読む」を購入し、読んでみた。

 そこには確かに「想像」できないほどの、しかし「想像」しなければならない苦しみが蠢いていた。
 そして本書の中の女性たちもまた、想像することで光を見出しながら生きていた。
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 著者・アーザル・ナフィーシーはテヘランに生まれる。エリート階級に生まれた彼女は13歳で海外留学し、欧米で教育を受ける。
 そしてイラン革命直後に帰国し、テヘラン大学の教員となるが、ヴェールの着用を拒んだ等のかどでテヘラン大学から追放される。

 その後、他大学で教鞭をとるが、退職後、いよいよかねてからの夢を実現する。
 それは女子学生だけで、秘密の読書会を開くことだった。

 読むのは必ずフィクションの文学作品だが、無害な小説は要らない。









 「ロリータ」「グレート・ギャッツビー」「高慢と偏見」等々、フィクションから真実がギロリと顔をのぞかせるものばかりだ。
 しかしそれだけに、どれもイスラーム共和国で読むには危険を伴うものだった。
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 「なぜ読書は必要なのか?」「なぜ本を読むことが大切なのか?」
 読書が好きな人でも、ふとそう考える人は多いであろう。

 以前、ある作家が「読書は他人の靴を履くようなものであり、だから大事なのだ」と語っていた。つまり、読書をすることで他者の視点を持つことができると言っているわけだが、本書を読み、改めてそれを認識した。

 女性がことごとく虐げられる現実世界で、アーザルたちは読書を通じて他者の経験をし、他者に共感し、想像し、それを現実世界にフィードバックさせていく。

 不自由な服装で行動し、声を出すこともはばかられ、好きでもない男性と無理矢理性交渉を持たされる。それはやはり「他人に対する無理解や不注意」から生じるものだ。
 アーザル率いる女子学生たちは、読書を通じてその状況にしっかりと疑問を持ち、外気を吸いこみ、打開すべく頭と心を鍛えていく。

 彼女たちにできることは微々たるものかもしれない。政治や法律、宗教を動かすほどの力はないかもしれない。実際、信仰にすがらなければ生きていけないと嘆く女子学生もいる。
 しかし、1人ひとりが勇気をもって、政治や宗教に封じ込められた「他者への共感、想像」の蓋を開けることで、何かはきっと変わる。
 それは本書で描かれる、本にまつわる論争や裁判、男女の会話からうかがうことができる。
 リスクを背負いながらも「テヘランでロリータを読」んだことは、大きな山を動かす一歩になっているのである。

 ちなみに本書は大ベストセラーとなり、アメリカだけで約150万部売れ、日本を含む25か国の出版社が版権を取得したという。
 そして、本書が発売禁止とされているイランでも、様々な手を使ってこっそりと読まれているそうだ。

 個人の自由を奪われ、尊厳を踏みにじられた世界のなかで、それに抵抗すべく文学を読む。
 そんな世界を、日頃「想像」したことなどなかったが、それを「想像」することが自由の国で生まれた私の使命なのだろう(アイやミナではないが)。
 そして今でも、その「想像」もできないような世界で、読書から得られる「想像」によって何かを変えようとしている人がいるのだろう。

 本書ほど、読書の意味・意義を教えてくれた本はない。
 本好きとしては、一生そばに置いておきたい、いや、置いておくべき一冊だと感じた。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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