奇跡の醤 ~陸前高田の老舗醤油蔵 八木澤商店 再生の物語~ 竹内早希子

評価:★★★★★

  どんなに気持ちを奮い立たせようとしても、あまりに厳しい現実を前にして、涙ばかりがあふれ、立ち上がれる日は永遠に来ないように思えた。
(本文引用)
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  本書の帯には、こんな言葉が載せられている。 

「被災の記録ではなく、成長の物語として読んだ」

 これは糸井重里氏によるコメントだが、本当にその通りだと思う。

 確かにこの本は、東日本大震災からの復興の物語だ。二百年の歴史をもつ老舗が一夜にしてすべてを失うというのは、天変地異でもないと考えられないだろう。

 しかし読むうちに、震災に関する本ということを忘れてしまう。なぜなら、ここに描かれる企業再生や始動の軌跡は、どんな場面にも当てはまるからだ。



 ゼロから企業を再生させる姿勢、そこで見えてくる「本当に大切なもの」。それらは震災の有無に限らない、もっと普遍的なものだ。

 だから私は、この本を震災関連というジャンルに押し込めたくはない。仕事でも人生でも何でもよい。とにかく、何かに向かって前進しようとする人すべてに読んでほしい。
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 岩手県陸前高田市の醤油蔵・八木澤商店は、2011年3月11日の東日本大震災で壊滅的な打撃を受ける。製造設備はもちろん、醤油蔵にとって命といえるもろみや桶も全て消失。被害総額は2億円以上にものぼり、もはや再起は不可能と言われる。

 しかし、9代目の河野通洋は再建を決意。従業員らと共に、またおいしい醤油を作れる日を夢見て奮起するが、そこには、震災にはとどまらない大きな苦難が待ち受けていた。
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 血の通った文章で、情熱的かつ丁寧に綴られているため、いっぺんに引き込まれグイグイ読めた。

 しかし、その吸引力は筆致によるだけではない。
 先にも述べたが、内容が震災にとどまらず「企業を作り上げること」全体を指して書かれているため、ビジネス・ノンフィクションとして非常に興味深く読むことができた。

 たとえば、こんな場面。
 通洋が八木澤商店に入社した頃、会社の業績は悪化していた。そこで通洋は、キャッシュフロー改善のための事業計画を作る。
 通洋は、とにかく社員の給料を払うために利益の追求に走るが、それとは裏腹に社員の心はどんどん離れていってしまう。

 その痛い経験から、通洋はある気づきを得るのだが、それは震災云々の問題ではない。どんな会社でも、どんな場面でもありがちな失敗を通洋はおかし、そこから得た教訓はどんな場面にでも使えるものだ。

 また、震災後の工場移転にまつわる問題も、どこででも起こりがちなことだろう。
 生活のためには人は働かなくてはならない。しかし、働くことそのものが生きることを脅かすこともある。その時、人は確実に離れる。
 社員の心をつなぎ留め、社員とともに企業を成長させていくことは、これほど繊細で困難なものなのかと、ただただ驚いた。

 勿論あの大震災からの復活劇という点で、本書の内容はドラマチックだ。生ものを扱う会社が、震災で大打撃を受け、もともとの味を取り戻すというのは、想像を絶する努力を要するものだろう。
 しかし、本書に描かれる「奇跡」は、おそらくもっと幅広い意味をもつ。世界中の企業は、ここに描かれるような奇跡を積み重ねて、成長してきているのだろう。

 本書を読むと、震災に限らず、世の中の見え方が変わってくる。
 自分が勤めている会社も、街に立ち並ぶ企業も商店も皆、「奇跡の醬」を造りつづけているのだ。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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