切れない糸  坂木司

評価:★★★★★

  都会的な仕事じゃないし、スーツを着ることもない。でも、小回りがきいて自分の思うとおりに動くことができる。それに、たくさんの人を救うことなんてできやしないけど、近所の人の助けにはなれそうな気がしてきたし。
(本文引用)
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 「物語を読むって、た~のしい~~!」
 心からそう思える小説で、読んでいる時間も読んでいない時間もウッキウキしていた。

 ミステリーだから当然、「次はどうなるんだろう?」「真相は何だろう?」というドキドキ感もあった。しかし本書の魅力は、それだけでは到底語りつくせない。

 十重二十重に重なる謎解きも素晴らしいが、そこに隠された「人の温かさ」がたまらない。
 読めば読むほど人間が大好きになってくる、人を信じられるようになってくる、メガトン級にハートウォーミングなミステリーだ。(本書があまりにも面白かったので、坂木氏の本を何冊か買ってしまった!)



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 本書は四話からなる短編集。舞台は、とある商店街だ。

 主人公の大学生・新井和也は、父親の急死により、家業のクリーニング屋を継ぐことになる。
 乗り気ではなかったこともあり、預かった衣類のボタンやほつれ、汚れの種類やポケットの中身の確認がまだまだ甘く、怒られることもしばしば。
 クリーニングは化学薬品を扱うだけに、いくら気をつけても気をつけすぎることはないのだ。

 しかし、預かった衣類から和也が学ぶことはそれだけではない。クリーニングに出される衣類には、顧客の深刻な悩みや、声にならない心の叫びが隠されているのであった。
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 この短編集の見事な点は、まずミステリーの質が非常に高く、しかもブレがないことだ。
 四話すべて、ニンニクか玉ねぎのごとく、剥いても剥いても「真」の真相が出てこない。逆に言うと、真の真相にたどり着くまで徹底的に皮を剥いていくというわけだが、そのプロセスが痺れるほど面白い。

 たとえば第一話は、どう考えても家で洗えそうな衣類をクリーニングに出してくる親子の物語。ただでさえ不思議に思っていたのに、その家の息子が、「ある物」については絶対に洗わないでほしいと和也に頼む。それには、ある深い事情があった。
 また、第二話は女性のファッションの物語。幼馴染の女の子が社会人になってから雰囲気が変わり、スカート派だったのにパンツ一辺倒に。それには、クリーニングに出したスカートの悲劇が関わっていた・・・。

 どれもこれもクリーニングにまつわるミステリーなのだが、よくぞまあ衣類ひとつで、ここまでバリエーション豊富に物語が書けるものだ、と感動した。
 その謎解きで使われる知識は、クリーニング業を営む人だけでなく、家庭で知っていても十分役立つものばかりなので、読んでおいて決して損はない。本書を読んでいると読んでいないのとでは、衣類の持ちが断然違ってくるかもしれない。

 そして、「切れない糸」というタイトル通り、人と人とのつながりを大切に大切に描いている点も良い。
 もともと、和也は困っている人や動物に懐かれてしまう性格に悩んでいたのだが、その性格がどんどん功を奏していく展開が良い。
 他人に干渉されない生活のほうが気楽で良い、ご近所づきあいなんて真っ平!などと考えていたが、この物語を読んでいたら、途端に地域づきあいをしたくてたまらなくなってきた。
 人間を恐れることはない。独りがいい、なんて粋がることはない。
 人って、こんなに誰かを助けて、誰かを励まして、誰かを温めてくれるものなんだな・・・そう、体の芯から思えるストーリーだった。

 謎解きも一級品、心温まるドラマとしても一級品。様々なドキドキとウッキウキが詰まった、読書の楽しさを教えてくれる物語だった。
 最高!

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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