1945年のクリスマス ~日本国憲法に「男女平等」を書いた女性の自伝~  ベアテ・シロタ・ゴードン

評価:★★★★★

  「あなたの未来は今私が書こうとしている事柄で決まるのよ」
 行き交う女性の顔を見ると、そんな科白が口をついて出そうになった。

(本文引用)
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  先日、「ミライの授業」を読んで以来、ベアテ・シロタ・ゴードン氏についてもっと知りたいと思った。

 そこで手に取ったのが、このベアテ氏自身による手記。

 ユダヤ人として生まれ、身近な人を何人も強制収容所で失っているせいか、人一倍人権意識の強かったベアテ・シロタ・ゴードン。
 日本国憲法を作るにあたって偉大な貢献をした彼女は、いったい何を思い、何を悔やみ、何を願いながら憲法を作ったか。そしてその時、日本はどうしたか。

 日本国憲法を作る、日本を改造する-その作業工程から、世界と日本の「生身の姿」が見えてくる。



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 世界的ピアニストを父に持つベアテは、少女時代の10年間を日本で過ごし、アメリカで終戦を迎える。
 
 しかし、当時連合軍総司令部GHQの民間人要員として働いていたベアテは、終戦直後の1945年12月24日、再び日本の地を踏むこととなる。ある重要な任務のためだ。
 
 それは、「日本の民主化に着手する」こと。

 マッカーサー元帥は、日本の軍国主義化を防ぐことと、日本を「世界に通用する民主主義国家」に改造することを目指した。そのためには、まず女性の権利の向上が必要であると考えていた。
 そこで呼ばれたのが、語学が堪能な若き女性ベアテだった。

 ベアテは、封建的な男尊女卑社会である日本を変えるべく、新しい憲法に男女平等を盛り込もうと奮闘する。
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 本書を読んでいて、まず面白いのは、憲法が作られるまでの過程だ。ただ信念や理念がザッと描かれているのではなく、今流行りの「校閲ガール」さながら、一言一句を細かく精査していくプロセスが克明に描かれているのである。

 この条項を入れることで、民法との兼ね合いはどうなるか。この表現は要るか、この一文は必要か否か。憲法に入れるべき内容か、制定法に任せるべきか。
 
 ただ「基本的人権の尊重」という理念をもとに、無暗やたらと条項を入れてしまうと、どこかで歪みが起こり、却って人権を縛ることにもなりかねない。そのあたりの匙加減と言おうか、意見のぶつかり合いには息をのむ。
 そのようななかで、いかにして女性の地位を向上させ、男女平等を叶えるか。それに向けたベアテ氏の並々ならぬ努力と、先進的な男性陣の理解やアドバイスは、読んでいて実に気持ちいい。

 しかしそれは、それまでいかに女性の地位が低かったか、ということをも表している。

 その点で最も驚いたのが、比較翻訳の作業段階における日本側の発言だ。
 日本側は、人権に関する条項において、日本には向かない点が多々あると主張。さらにこう付け加えたという。 

「女性の権利の問題だが、日本には、女性が男性と同じ権利を持つ土壌はない。日本女性には適さない条文が目立つ」

 ベアテ氏は、日本人に対する印象として、旧態依然を好む習性があり、何かをして目立つことを恐れると語っている。
 それにしても、女性の地位向上や女性の解放を望む条項について、「そもそも女性が男性と同じ権利を持つ土壌はない」から問題だ、と主張してしまうとは唖然愕然茫然である。

 そのような物言いがついたものの、日本国憲法には、何とか女性の人権を保障する条項が盛り込まれた。
 しかし、このようなエピソードを知ってしまうと、未だに男尊女卑の思想が根強く残っていることが、悲しいことに納得できる。

 本書は一見、ベアテ・シロタ・ゴードンという女性が日本国憲法を通じて女性の人権や地位を向上させたことを称える本に見える。
 しかし、もしかすると本書の価値はそこではないのかもしれない。世界でも日本でも、いかに女性が蔑まれているか。それを知ることができる点に、この本の存在意義はあるのではないか。私はそんな気がしてならない。

 今から71年前のクリスマスイブに日本に降り立った女性が見たものは、71年経った今では変わっているだろうか。それとも変わっていないだろうか。

 このクリスマスは、そんなことをじっくりと考えてみたい。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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