匿名交叉  降田天

評価:★★★★★

 ――私は多分、狂ってる。
(本文引用)
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「鋭いつもりだったんだけどな」


 物語終盤で、ある事実が明かされた瞬間、驚愕と共にこんな言葉を吐いてしまった。

 実は本書の中で、ある登場人物もこの言葉をつぶやいている。
 推理小説やどんでん返し小説に少々慣れている人でも、この事実にはなかなか気づけないのではないか。
 今考えると、なぜ気づかなかったのか不思議だが、そう思わせるところがこの小説のすごさだろう。



 なぜ気づかなかったのか、なぜ想定できなかったのか不思議なんだけど、全く考えもしなかった――ここまで見事に騙されると、悔しいを通り越してスカーッとする。
 ミステリー小説で脳内を思いっきり掃除したい方には、全力でお薦めしたい作品だ。
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 出版社に勤める綾野楓は、仕事上のトラブルにより担当雑誌から外される。
 楓は釈然としない思いを抱えたまま、新しい仕事を任されるが、そこであるブログを紹介される。
 それは、幼い娘のためにコスプレ衣装を手作りする、父親のブログだった。ハンドルネームは「ソラパパ」だ。

 「子どものいない人にはわからない」と読者に言われた楓は、その腹いせもあり、ソラパパのブログに批判的なコメントを載せる。 

「貴方は本当に子供を愛していますか」


 そこから、楓とソラパパの憎悪に満ちた交叉が始まる。破滅するのはどっちか?
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 この物語に登場する人間たちは、そろいもそろって驚くほど粘着質だ。
 楓はソラパパのブログに批判コメントを載せるだけでは飽き足らず、ソラパパが出入りしているグルメサイトにまで侵入し、ネット上で追い掛け回す。
 一方でソラパパも、それに覆いかぶさるように楓に対しストーカーまがいの行為を行う。

 お互い似た者同士といおうか、相手を追い詰めるつもりが自分を破滅に追い込まんばかりにネットに張り付き、相手を貶めようと画策する。

 他の登場人物たちも相当だ。
 ソラパパには、事故で5年も昏睡状態に陥っている妻がいる。それだけに、愛娘には愛情を注いでコスプレ衣装を作り続けているのだが、ソラパパの妹がまたしつこい。

 実家に頼るな、衣装づくりはお兄ちゃんの自己満足、もっと娘と一緒にいてあげたらどう?

 娘を実家に預けて働いているため、そう言われてしまうのだが、それにしても妹の愚痴は常軌を逸している。
 しかし実はそのボヤき、かなり「真実を突いている」ということが後々わかってくる。

 他、やや人格的に問題のある人がこの小説には多いのだが、それが全て重なり合うと、真相が浮かび上がってくる。登場人物1人ひとりの台詞を、気を抜かずに読んでいただきたい。

 ネットやメールでの匿名性を扱った小説や映画は数あるが、この小説は秀逸。
 周囲の人間が誰も信じられなくなってしまいそうだが、とりあえずは信じて、匿名性の妙を存分に堪能していただきたい。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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