小やぎのかんむり  市川朔久子

評価:★★★★★

  「愛とか絆とか、そこに意味を持たせようとするから、なんだかおかしなことになる。――そんなもの、運がよければあとから出てくるもんだ。ないものをあると仮定するからゆがむ。苦しむ。はじめからありはしないのに」
(本文引用)
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 やられた・・・これはやられた!

 私には小学生の子どもがいるので、ついつい親子関係に関する物語を手に取ってしまうのだが、この小説にはやられた。親として、後頭部を鈍器で思いっきり殴られたような衝撃を受け、嗚咽した。

 なぜなら、この小説を通して、私は気づいてしまったから。

 「私は、子どもを幸せにする育て方をしていなかった」
ということに。
 「私は、子ども自身の幸せを本当に願ってはいなかった」
という事実に。
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 主人公の夏芽は、名門私立女子校に通う中学生。周囲からは羨望の眼差しを浴び、何不自由なく育てられているように見える。
 しかし、夏芽は大きな問題を抱えていた。家族のことが大嫌いなのだ。
 特に嫌いなのは父親だ。外面は良いが、プライドばかり高くわがままで暴君。ちょっと気に入らないことがあると、平気で夏芽の顔を殴りつけるような男だった。
 母親も頼りなく、夏芽がどんなピンチにあっても、夫の顔色をうかがって助けようともしない。

 夏休み、夏芽は親友の香子と一緒に、学校のサマーキャンプに行く計画を立てる。
 しかし、直前になって夏芽は予定を大きく変更。
 夏芽は、山奥の寺のサマーステイに参加する。参加申込者は夏芽ひとりだった。
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 とにかく終始圧倒されっぱなしの物語だったが、この小説、特に秀逸なのは、ストーリーの中に巧みに「虐待の本質」「虐待の真の問題点」が織り込まれている点だ。

 たとえば本書で描かれる問題点のひとつとして、「虐待を受けている子どもは、自分を例外と思っていない」ことが挙げられる。
 夏芽の父親は明らかに異常で、そのせいで家族としての機能は完全に壊れているのだが、夏芽は他の家庭もそういうものだと思っていた。しかし、親友・香子の家庭環境に触れ、ようやく己の家庭の異常性に気づきはじめる。

 さらに本書では、こんな問題点もえぐり出す。「子どもは親にマインドコントロールされてしまう」ことだ。
 実はこの物語には、もうひとり、虐待されている幼い少年が登場する。
 夏芽も少年も、親から理不尽な扱いを受けつづけ、心も体もボロボロになる。しかし、二人とも異口同音に「自分が悪い」と言うのである。

 本書には、そんなエピソードが随所に盛り込まれており、「普通の家庭に育った人からは考えられない、虐待の真の問題点」がえぐり出されている。
 虐待に関する悲しいニュースを聞くたびに、虐待の発見がなぜ遅れたのか、手遅れになる前になぜ救い出せなかったのかと歯がみするが、それにはこんな「見えない問題点」が潜んでいたのだ。

 読みやすく優しい物語だが、そこに込められた主張は熱い。
 人は誰でも、自分にしかない人生を、心豊かに自信をもって歩む権利がある。どんなに小さい赤ん坊でも、それを侵されてはならない。
 しかし親は時として、それを踏みにじるときがある。子どもの幸せを願うふりをして、子どもの人生を破壊してしまうことがある。
 この物語は、その恐ろしさを切に訴えているのだ。

 本書を読む前と後とでは、子どもへの向き合い方がガラリと変わった。
 今まで私が考えていた「子どもの幸せ」は、虚栄心で塗り固めた張り子細工のような「幸せ」だった。

 しかし、本書を読み、子どもの心が喜びで充填されるような幸せを考えるようになった。
 
 この物語と出会えてよかった。出会えていなかったらと思うと・・・ゾッとする。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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