「二人で紡いだ物語」

 「まあちゃん。苦しかったね。いっぱい、がんばったね。でももう、がんばらなくていいんだよ。これまでまあちゃんは、私のことをずっと支えていてくれたんだもん。今度は、私が支えてあげる。だからもう安心していいんだよ。
 このあと、何が起ころうとも、どこへいこうとも、二人は一緒なんだよ。いつもいつも、ずっと永久に一緒なんだよ。二人は出会えてよかったね」
(本文引用)
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 「自分を信じることができる人は、他者を信じることができる」
 このエッセイを読んだ第一の感想だ。

 「自分は信じられるけど、他人は信じられない」
 「自分を信じることはできないけれど、他人は信じられる」
 たいていの人は常にどちらかに偏りがちで、時に傲慢になり、時に卑屈になってしまうものだ。

 しかし中には、全く揺らぐことなく、自分を信じ、他人を信じつづけられる人がいる。
 物理学者・米沢富美子。
 世界的な科学者が夫と築いてきた、愛し合い、信じ合いつづけた人生。
 それをエネルギッシュに、ユーモラスに、そして繊細に綴った一冊が、この「二人で紡いだ物語」である。


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 アモルファス研究で世界的に名を馳せ、日本物理学会会長も務めた、女性科学者の草分け的存在である米沢富美子。
 彼女と夫・允晴(まさはる)は、京都大学入学時、エスペラント部の部室で出会った。
 
 すぐに将来を決めた二人は、富美子が大学院に進んだ年に結婚する。
 若さ故か、夫への愛情の深さ故か、富美子は並外れた行動力と精神力で家族を支え続ける。
 
 企業派遣でロンドンに留学した夫を追って、自力でイギリス留学を果たすことを皮切りに、泡状奇胎による流産、命がけの掻爬(そうは)手術、それを乗り越えての三度の出産、家事・育児と研究との両立、子供の受験を間近に控えての乳がん発覚と乳房の切除・・・と、まるで彼女が頑張れば頑張るほど、それを痛めつけるように、数々の苦難が彼女を襲う。

 しかし、それを全て支えたのは、富美子曰く「スケールの大きな夫の言葉」であったという。

 「物理と僕の奥さんと、その両方を取ることを、どうして考えないの?」
 「一生懸命勉強して、少なくとも二人のうちのどちらか一人は博士号を取ろうね」
 「君の勉強している姿を最近見なくなった。怠けているのじゃないか」


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 毎日、家事・育児と研究生活に忙殺され、休む暇もない富美子は、のんきとも無責任ともとれる夫の言葉の数々に、時には怒りに手が震えることもあったという。
 しかしその言葉のおかげで、どんな困難でも乗り越えることができたと語っている。

 特に私の中で印象に残っているのが、この言葉だ。


 「できないわけはないだろう」


 赴任先のアメリカで物理学会が開かれることになり、そのためにはアメリカのハイウェーを車で移動しなければならない。
 運転経験の少ない富美子は、世界一恐ろしいといわれるアメリカのハイウェーを運転することに不安を感じ、二の足を踏む。

 「私にはできないよね」

 「できれば夫に運転してもらいたい」。
 そんな本心を込めながら、夫に一言こぼした際に返ってきたのが、この言葉、「できないわけはないだろう」だ。
 その言葉のおかげで、富美子は以後、世界中どこでも運転できるようになったという。

 そこが一流の人物が一流たる所以で、決して逃げることなく、また不満ももらさない。それは決して我慢をしているわけではなく、全てを前向きに自分のエネルギーに変え、成功への足がかりとするのだ。
 これにはもはや天晴れとしか言いようがなく、平凡な逃避型人間の私には思いも及ばない克服型発想だ。

 しかしそうすることができたのは、富美子に卓越した能力があったからだけではない。
 夫を心から信じ、そしてそれ以上に自分を信じているからこそできたのだ。
 そして夫もまた妻を心から愛し、信じていたからこそ、それらの言葉を発することができたのである。

 「女房のほうが僕に惚れとるんや」

 允晴氏は世界的に活躍する妻を自慢しながら、知人にそう言って廻っていたという。
 そう、要するに読んでいるこちらが照れてしまうくらい、ベタ惚れ同士の夫婦なのである。

 だからこそ、允晴氏が亡くなった場面では心から涙が溢れた。
 何で富美子さんを置いていってしまったのか。
 何でもう10年でも20年でも生きてくれなかったのか、と読みながら声を出して泣いてしまった。

 しかしそんな悲しみのなか、三人の娘たちは言う。
 両親は、世界一のカップルだと。
 パパは、最後までママを幸せにしてくれた、と。

 そしてもちろん富美子自身も、心からそう思いながら、最愛の夫の旅立ちを見送るのである。
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 「自分を信じ、他者を信じることができる人は、最高に幸せな人生を送ることができる」

 そんな当たり前のようで難しいことを、この本は身を切裂く思いで伝えてくれている。

 思い出すのも辛かったであろうに、このような本を出してくれた米沢富美子氏に、心からお礼を言いたい。
 そして允晴さん、本当に本当にありがとう。
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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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