愚行録  貫井徳郎

評価:★★★★★

あたしにとって秘密は、チョコみたいに甘い味なんだ。
(本文引用)
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 今月6日、ベネチア映画祭で映画「愚行録」が上映されたという。
 この映画は、日本では来年2月に上映されるというが、妻夫木聡・満島ひかり主演という「悪人」(吉田修一原作)コンビなので非常に楽しみだ。(「悪人」の満島ひかりさんは最高に良かった!)

 というわけで、今回原作を読んでみたのだが、なるほど・・・これは確かに「愚行」の記録だ。
 
 誰しも、大なり小なり愚行は犯すもの。それは本人が故意にやっている場合もあるが、本人は自覚がなくても周囲からすれば愚行に見える場合もある。誰かにとってはなんでもなくても、誰かにとっては許せない愚行もある。



 さて、あなたはどんな愚行を犯しているか?どんな愚行を許せないと感じるか?本書は、そんな課題を読者にグサリと突き付ける。
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 東京都内で、一家四人が自宅で惨殺される事件が起こった。
 夫婦は共に高学歴のエリートで、子どもたちもよくしつけられ、近所では評判の良い家族だった。

 そんな彼らがなぜ、残虐な殺され方をしなければならなかったのか。
 あるルポライターが、被害者夫婦を知る人物たちに取材をし、事件の真相を追っていく。
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 この物語は、複数の証言のみからできている。ルポライターや被害者家族の視点からは一切書かれていない。学生時代の友人やかつての恋人、会社の同僚や習い事で一緒だった主婦等、被害者を知る者たちの証言から、徐々に真相があぶり出されていく。
 そして、あぶり出すのは刑事でも名探偵でもない。犯人の吐露と読者の読み込みのみに、それは委ねられている。なので、真相がわかるかわからないかのスレスレの瞬間に、ほとんどの読者はちょっとページを戻ることだろう。

 なかには、それにモヤモヤする人もいるかもしれない。スパッと「お前が犯人だ!」と刑事が言って流れるように終了、というのが好みの人には不向きな内容かもしれない。

 しかし、私個人は、またちょっと読み直して犯人を確認するミステリーというのは非常に好きなので、こういう構成は大歓迎。何の気なしに読んでいた部分に、大きな謎が隠されていたという衝撃は、骨の髄からゾクゾクブルブルするものだ。
 被害者の知り合いたちの証言には、非常に多くの人物が登場するが、よーく目を凝らして1人も逃さない勢いでじっくりと読んでいただきたい。

 それにしても、これほどタイトルと内容がピッタリとマッチしている小説というのもなかなかない。
 本書はまさに、愚行の記録。殺人というこれ以上ない愚行の陰に、これほど多くの愚行が隠れていたのかと呆れ、慄然とする。もうこれはどう頭をひねっても逆立ちをしても、「愚行録」としか言いようがないだろう。

 そういえば、被害者の会社の同僚がこんなことを言っていた。 

「人間って本当に身勝手な生き物ですよね」

 

「ぞっとしますよね。人間の思いやりだの真心だの、そんなものが本当に存在すると思っている人がいるなら」

・・・。

 人間不信になりそうな物語だが、面白さは格別。チョコレートみたいに途中でやめられない甘美な味がある。
 こんな風に、他人の愚行をむさぼり読んでいる私の行動自体も、相当な愚行なのだろう。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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