人工知能と経済の未来 ~2030年雇用大崩壊~  井上智洋

評価:★★★★★

人間の価値は究極的なところ有用性にはありません。人の役に立っているか、社会貢献できているか、お金を稼いでいるか、などといったことは最終的にはどうでも良いことなのです。
(「おわりに」より引用)
______________________________

  学生時代の友だちと集まると、必ずと言ってよいほど「人工知能と雇用」の話になる。
 それは、子どもたちの将来が不安だからだ。

 私を含め、友人たちの子どもはみな小学校低~中学年で、ちょうど人工知能が雇用を駆逐するであろうと言われる頃に大学を卒業する年齢だ。
 どんな職業ならば、「人間でなければできない」とされるのか。どんな仕事だと、すぐに人工知能にとって代わられてしまうのか。
 親がウンウン考えても仕方のないこととはいえ、とりあえずこの本を手に取ってみた。

 AIにより、この世はユートピアになるのかディストピアになるのか。豊かになるか餓死するか。



 それについて本書では、希望と絶望を織り交ぜながら繊細かつ大胆に予測していく。軽妙洒脱な文章と比喩の上手さもあり、読んでいて何度も首がもげるほどうなずいてしまった。
 一言でいって、面白い。そしてちょっと、ウルッときた。
_______________________

 著者の井上智洋氏は、2030年を境に、人工知能が経済や社会のあり方を大きく変えると予測する。

 それは、2030年頃に、人間と同じような知的作業を行うことができる「汎用人工知能」がいよいよ出てくるとされているからだ。
 現在、一応「人工知能」として存在しているものは、一つの目的に対して作業することしかできない「特化型人工知能」。それが世の中に及ぼす影響はさして大きくないかもしれないが、一つの作業に特化せず人間らしい行動を起こすことができる「汎用人工知能」が普及すれば、一気に人間の仕事は奪われるという。

 こう書くともう絶望しかないようだが、著者はしっかりと「AIの限界」や「人間にしかないもの」についても、巧みな比喩で明快に解説。
 読者にささやかな希望を与えるが、結論としては、労働者にとってなかなか厳しい未来となることを予測している。

 では、そこから人間はどのように暮らせば良いか。何も雇用に思考を縛られることはない。そのような世の中で、人間はどうすれば豊かに暮らすことができるのか。そこまで考えている点が、本書の面白さだ。

 私が持っている本書の帯には、ドーンと大きく、こう書かれている。 

「AIが人類並みの知性を持ったら労働者は飢えて死ぬかも?
 だ か ら
新時代の社会保障には
BIを導入すべし!」

 AIはもちろん人工知能、BIとは「ベーシックインカム」のことだ。
 AIにより生産性が高まると、何らか(コンピュータ等)の所有権を持つ資本家たちはグンと豊かになるかもしれない。しかし大半の労働者たちは路頭に迷うこととなる。
 そのためにも、AIによる純粋機械化経済が訪れたら、誰もが最低限の生活費を得ることができる仕組みを整えるべきだ、と著者は語る。

 この主張を読んだとき、まず「そんなことをしたら、どんどん人間は堕落してしまう」「自分の価値がなくなってしまう」などと不安になってしまった。極端な話、パール・バックの「大地」に登場する、一日中阿片を吸ってダラダラしている大地主の姿などを思い浮かべてしまった。

 しかし、それは私の価値観が凝り固まっているせいだ。私はいつの間にか、自分自身にも子どもにも「有用性」でしか価値を量れなくなっていた。何か高い給与の得られそうな知的な仕事に就いて世の中に貢献して尊敬されることが、生きている証のように思っていた。

 だが、それは違う。人間の価値とは、そんな浅いところにあるのではない。そんなに単純に決まるものではない。
 本書を読み、そんな途轍もなく重要なことに気づかされた。

 「人工知能と雇用について知りたい」という軽い気持ちで手に取った本書だが、予想とは違う方向性で、非常に得るものの大きい本だった。
 雇用のなくなった世界は、やはりディストピアかもしれない。しかし、その世界になって初めて見える「人間の価値」は、人の心に人類史上最高のユートピアを与えてくれることだろう。

 そんな、新たな発見の多い良書であった。

詳細情報・ご購入はこちら↓


関連記事
プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

最新記事
シンプルアーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
RSSリンクの表示
QRコード
QR

書評・レビュー ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村
カテゴリ
広告
記事更新情報
リンク
広告