何様  朝井リョウ

評価:★★★★★

――――本当はなんて思ってるのか、聴かせて。どんな言葉でもいいから、誠実な言葉ならそれでいいから。
(本文引用)
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 直木賞受賞作「何者」のサイドストーリー。「何者」が非常に面白かったので読んでみたが、私としては本作のほうがずっと面白く、心打たれた。
 「何者」は読んでなくても、「何様」は読んでほしい。そう言って回りたいぐらい、心の底から「読んで良かった!」と思える小説だった。

 こんなことを言うのは、まさに「何様」という感じなのだが、朝井リョウさんは「何者」の頃に比べて、我々が思っている以上に作家として人間として成長したのだろう。そう考えると、「何者」で直木賞を獲ってしまったのがもったいないような気がしてくる。
 直木賞選考委員会の皆さま、「何様」への授与も検討していただけないだろうか。
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 本書は6篇からなる短編集。ラストの表題作に限らず、全て「いつの間にか周囲を下に見ていた自分に気づく」といったストーリーだ。そして全作、それに気づいた瞬間こそ、豊潤な人生の始まりであることを示唆している。

 自分が母親の胎内に宿った日を恋人に知らされて以来、街ゆく人皆について逆算をしつづける女性、
 成績優秀品行方正なのに、なぜかいつも「ワル」だった人に抜かされてしまう女性、
 「何者」では面接をされる側だったが、本作で面接をする側に回り、自分に採用面接をする資格などあるのかを自問自答する男性・・・。





 主人公たちは皆、いわゆる「上から目線」で人々を見つめては、等身大の自分に勇気をもって向き合い、一度壊れた自分を立て直していく。

 なかでも泣けたのは、第一話「水曜日の南階段はきれい」だ。

 主人公の神谷光太郎は高校3年生。目標となるインディーズバンドがいるという理由で、とある大学を目指す。
 そんな神谷には、ちょっと気になる女生徒がいる。それは、英語を得意とする夕子だ。
 
 神谷は、夕子が週に2回、滅多に人が使わない南階段を掃除していることを知る。
 神谷はその理由を知りたいと思うが、卒業間際、意外な理由を知ることになる。

 この物語を読み、久しぶりに透明な涙を流した。混じりっ気のない、ただ気がついたら頬を伝っているといった、純粋な涙だ。
 
 周囲に自分の夢を語りまくり、その夢に向かって着実に近づこうとする神谷。
 学校の、誰も使わない場所を掃除しつづける夕子。

 二人の夢が交差した瞬間、本書のタイトル「何様」が浮かび上がるような思いが、神谷の胸をつんざく。
 その意外な結末といおうか、夕子が南階段を掃除しつづける驚きの理由が明かされる展開は、出色の青春ミステリーともいえる。
 「良いものを読んだなあ」と、素直に思える物語だった。

 さらに私が気に入っているのは、第二話「それでは二人組を作ってください」
 
 一緒に住んでいた姉が婚約者と同棲を始めるため、急きょ同居人探しを始める理香。彼女は、友人女性との同居に向けて準備を進める。
 その友人は、あるシェアハウス番組に夢中だったため、理香はその番組に登場するインテリアを買いそろえる。
後は友人の引っ越しを待つばかりだったが・・・?

 これは最も「何様」というタイトルが似合う作品。「何様」という気持ちをまとめているのは第六話「何様」なのだろうが、「何様」と言いたくなる視点を持つことの虚しさを、残酷なまでに描き出している。
 誰の心にも大なり小なり巣くっている「何様」という感情を深~いところから丁寧に引き出しており、表題作以上に「本書の代表作」といえるのではないか。結構キツイ内容だが、私はなぜかこの物語が強烈に好きだ。

 10月に映画「何者」が公開されるが、ぜひその前に、この「何様」も読んでみていただきたい。
 本書を通して、彼らの裡に潜む夢、トラウマ、秘密、そして人生を知れば、映画を何倍も楽しめることだろう。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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