コンビニ人間  村田沙耶香

評価:★★★★★

「普通の人間っていうのはね、普通じゃない人間を裁判するのが趣味なんですよ」
(本文引用)
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  言わずと知れた、2016年芥川賞受賞作。

 本書を読み、私はある一冊を思い出した。「自分の小さな『箱』から脱出する方法」という本だ(レビューはこちら)。

 自分にとって都合の悪い人間や自分をいら立たせる人間を、いつの間にか「自分をいら立たせてくれないと困る人間」にしてしまう。そうしないと、自分がいら立っていることを正当化できなくなってしまう。
 「自分の小さな『箱』~」は、そんな矛盾かつ狡猾な思考回路を鋭く分析、指摘した本で、非常に耳の痛い一冊だった。

 「コンビニ人間」には、そんな感情が渦巻いている。

 30代半ばになって、結婚もせずコンビニエンスストアでアルバイトを続ける主人公を、「普通」の人生に矯正しようとする「普通」の人たち。
 そんな「普通」の人たちは、要するに「自分の箱からどうしても出てこられない人たち」なわけだが、この小説を読んでいると、そんな「普通のマジョリティの人たち」の暴力性に戦慄する。
 彼らはマイノリティを恐れ排除しようとするが、実はマイノリティの人たちよりもずっと異常で、おぞましい存在なのだ。
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 主人公の古倉恵子は、子どもの頃から「変わり者」として見られていた。
 恵子自身もそれを自覚し、学生時代はひたすらおとなしく過ごした。





 しかし、そのような状態のままでは社会に出られないという焦りが生じ、大学1年からコンビニでのバイトを開始。気がつけば、同じ店舗に18年勤めている。

 独身で、恋愛経験もなく、正社員として勤めているわけでもない恵子に対し、周囲の者たちはいろいろと干渉する。

 そんな時、白羽という男がアルバイトとして入ってくるのだが・・・?
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 作中、ずっと恵子は、普通に生きていくこと、いや「普通に生きているように見られること」を必死に模索する。
 その姿には胸をえぐられる思いがしたが、一方で、私はこんなことも考えていた。

 「あなたが普通に生きようとすると、周りはもっとあなたを叩くだろう。だってあなたは、彼らにとって『異常』であることを求められているのだから」。

 恵子は、「普通に人生に成功している」と思い込んでいる人にとって、まさにコンビニエンスな人間なのだ。恵子の「普通ではない、負け犬のような人生」を見ることで、「普通」の人間は安心している。期待通り「普通ではない人生」を送ってくれることを、周囲の者は望んでいる。
 だからきっと、恵子が「普通」の生活を送るようになると、周囲の人間たちはムシャクシャすることだろう。周囲の人間たちが箱から出てこないかぎり、恵子が「正常」な人間関係を継続させるためには、「異常」な生活を送りつづけるしかないのだ。

 そういう意味で、「コンビニ人間」は人間関係の真髄、社会の奥底に潜む問題点をえぐり出しているように思う。1人ひとりが自分の小さな箱から脱出しないと、互いの人生は不必要に苦しくなる。社会が不必要に生きにくくなる。
 コンビニエンスストアとその周辺という狭い範囲の物語が、平易な文体で淡々とつづられているのに、意外なほど(失礼!)、「普通が求められる社会で生き抜くこと」について広く深く考えさせられた。

 社会のマジョリティ、マイノリティ、両方の視点を培ってくれる傑作である。

※「文藝春秋」には、著者・村田沙耶香氏自身の「コンビニでのバイト」エピソードが語られているので、よりいっそう本作が楽しめると思う。
 店長について触れている部分には、ちょっとグッときちゃったなぁ・・・。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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