三の隣は五号室  長嶋有

評価:★★★★☆

誰もかれも、すべての人が、簡単に生きたはずないのにな。
(本文引用)
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  今年の谷崎潤一郎賞受賞作(同時受賞作は絲山秋子「薄情」。レビューはこちら)。
 何とも不思議なタイトルで、この題名を聞いた人の多くは「ドラえもん」ののび太の家出を思い出すのではないだろうか。4号室のないアパートで、のび太は秘密の4号室を作り独り暮らしを始めた物語だ。
 
 残念ながら、この小説には秘密の部屋も魔法の道具も出てこない。これ以上ないほど現実的な物語だ。
 なのに、「ドラえもん」以上のスケールの大きさや不思議さを感じさせる。

 賃貸アパートの、ある一室を借りた人々は、何を思いどんな風に生きたのか。風邪を引いた時、荷物が入らない時、ブレーカーが落ちた時にはどうしたのか。どんなテレビ番組を観ていたのか。



 出会ったこともない人々が、移り行く時代と共に、アパートの一室を通してやんわりとつながっていく・・・これは、新感覚のパラレルワールドストーリーだ。
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 第一藤岡荘の五号室は、独特の間取りをしている。和室二部屋とキッチン、押し入れ、風呂、トイレという一見普通の部屋だが、一部屋の和室が三方障子に囲まれているのだ。

 その部屋に住む者は、その障子を家具でふさぐなり開放するなりして自由に住んでいた。奥の和室から玄関に向かうルートも、住人によってさまざまだ。
 
 さて、1966年から50年の間にこの部屋に住んだ13人の者たちは、人生の一部をどのようにして、この部屋に預けたのか。
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 本当に何ということもない物語だ。賃貸アパートの一室のことだ。そりゃあ、いろんな人間が通り過ぎていくのは当たり前のことだろう。
 当たり前のことなのだ、が、この物語にはどこか「1人ひとりの人間の生活を、当たり前なんて思っちゃいけない」と訴えるような迫力がある。
 そして、こんな思いが心の奥底から突き上げる。「1人ひとりの人間の生きている時間は、どんなに小さいものでも短いものでも愛おしいものなのだ」と。

 その思いは、こんな何でもないエピソードからも湧き上がってくる。
 ガスのホースがちょっとだけ残っていて、すぐにガスが使えない。なぜ前の住人は、ガスのホースを完全に取り払っておいてくれなかったのか。
 水道の蛇口はもともとひねる形だったが、それが不便になり下げ止め式レバーの蛇口にした。でも、引っ越す時には原状回復しておかなければならない。さて、次の人のためにはどうする?
 そんな日常生活の小さな出来事1つひとつに、この部屋に住む人々の人生が凝縮されている。

 子どもの誕生、伴侶の病、あまり長居したくない単身赴任、恋人と別れようとしている友人の居候計画・・・。

 彼らが五号室で営んでいる日々の出来事は、傍から見れば本当に何でもないことだ。しかし、1つひとつの行動には彼らの必死な思いが隠されている。そしてそれを、決して出会うことのない次の住人が時折慮り、自分の生活に生かしていく。そんな、薄いようで濃い人間同士のつながりが、この物語には真摯に描かれている。

 だから、この小説を読むと、素直にこう思える。
 ああ、人間っていいな、と。

 自分の人生を「何てつまらないんだろう」なんて腐したくなったら、思い切って手に取ってみてほしい。つまらない人生なんてひとつもない、と、心に一筋の光が射すことだろう。

 余談&超個人的な感想だが、「お笑いスター誕生」を夢中で観ていた人には特にオススメ。理由は・・・読めばわかる!

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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