猿の見る夢  桐野夏生 

評価:★★★★★

「礼なきことはしてはいけないのです。なのに、人間は愚かしくて、すぐ自分の欲望に負けてしまう」
(本文引用)
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 す、す、すごい・・・・・・。
 これほど煩悩だらけ欠点だらけ、ただただ愚かで突っ込みどころ満載(というか、もうどこから突っ込んで良いのかわからないくらい馬鹿)の主人公がいるだろうか。

 もし、「主人公は正義と善意の人でなくてはならない」などという固定観念を持っていたら、全力で本書をお薦めする。
 そんな思い込みがカキーン!と宇宙の果てまで飛ばされ、猛烈に爽快な気分を味わえるだろう。

 こう書くと、「主人公に魅力を感じられない小説なんて読みたくない」と思われるかもしれない。実は私もそう思っており、途中、読むのをやめようかと思ってしまった。
 が、これがもう、なぜかたまらなく面白い。ページをめくる手が止まらない。



 だってここまでどうしようもない人物だと、行く末が気になって気になって仕方がないではないか。
 桐野夏生の新刊「猿の見る夢」は、最も主人公であってはいけないタイプの主人公が嵐を巻き起こす。新しすぎるタイプのヒーローの誕生だ!
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 主人公の薄井正明は元大手銀行勤務で、現在はファストファッションチェーンに出向している。その企業が時代の追い風を受けて業績が順調で、このままいけばその企業で社長も狙える。

 薄井が手にしているのは、それだけではない。家庭も円満で、長年付き合っている愛人もいて、さらに美しい会長秘書ともいい仲になりそうで、さらにさらに実家の敷地内に二世帯住宅を建築予定と、薄井は人生の春を謳歌している。
 そんなとき、ネット上で、社内のセクハラ問題が噂される。薄井はその解決を任され、それを機に、美しい会長秘書も出世も手に入れようと画策するが・・・?
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 この物語は、とにかく薄井の欲望のオンパレードで進んでいく。その愚かしさを絶妙に表すのが、各章のタイトル。

 「二兎追う者」「狸の皮算用」「蛙の行列」「猫に鰹節」「犬の遠吠え」「猿の水練」「逃がした魚」・・・。

 最初は何気なく目にしているタイトルだが、物語が進み、薄井が真綿で首を絞められるように窮地に追い込まれていくにつれて、ジワジワくる。
 始めのうちは、薄井のあまりの浅はかさに腹立たしさを覚えるかもしれない。が、タイトルと合わせてモニタリングする感覚で薄井の言動を見ていくと、これがもう身がよじれるほど面白い。
 「こんな風に姑息で狡猾で無神経で自分勝手な行動をとる人って、こういう思考回路なのかぁ」と、笑みすらこぼれてくる。(これは「発言小町」に読みふける時の感覚と非常に似ている。)

 欲望のままに全てを手に入れようと、驚きの図太さでのたうち回る薄井が、さて最後にどんな運命のルーレットに乗せられるか。

 正義と善意の主人公が勝つ勧善懲悪タイプの物語がお好きな方に、ぜひ読んでみてほしい一冊。

 えっ?逆じゃないかって?

 いやいや、これ、そういうのが好きなタイプの人ほどスカッとすること間違いなし。
 欲と煩悩にまみれた救いようのない愚かなヒーローの大活躍(?)に、存分に溜飲を下げることだろう。世の中甘くないようで結構甘く、でもやっぱり、甘くないのだ。

ドラマ化希望!というわけで、勝手にキャスティング
薄井正明:小林薫
朝川真奈:壇蜜
美優樹:三浦理恵子
史代:樋口可南子
志摩子:室井滋
長峰:根岸季衣


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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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