神経ハイジャック ~もしも「注意力」が奪われたら~   マット・リヒテル

評価:★★★★★

「道路から目が離れれば、あるいはハンドルから手が離れれば、リスクが生じます。ですが、もっと危険なのは、道路から心が、気持ちが離れたときなのです」
(本文引用)
______________________________

  6月に発売されて以来、本書の存在が気になってはいた。だが、他に読まなければならない本がたくさんあったため、なかなか購入には至らなかった。
 しかし、ある出来事を機に、その優先順位はガラリと変わった。今はとにかく、この本を真っ先に読まなければならない。そう思ったのだ。

 その「ある出来事」とは、ゲーム「ポケモンGO」の配信だ。
 世界中で大ヒットとなっているこのゲームだが、このゲームをめぐり様々な論争が起きている。

 その争点のひとつは「ながらスマホ」。



 私はこのゲームを体験していないので詳しいことはわからないが、どうやら「現実世界を舞台にして、ポケモンを捕まえたりバトルしたりすることができる」ゲームらしい。
 よって、街なかでスマホをかざしてゲームをすることになるわけだが、その性質から「歩きスマホ」が増えることは自明の理だ。

 もちろんたいていの利用者は、理性と秩序をもってゲームを安全に楽しんでいることだろう。
 しかし、配信当日や翌日は、明らかに「ポケモンGO」をやっている「歩きスマホ」が街中を跋扈しており、さらに悪いことに「ながらスマホ自転車」や「ながらスマホ自動車」まで出現してしまった。
 「ながらスマホ自転車」は、私も実際に何件か目にしたが、信号無視や突然の車道横断は当たり前。見ているだけで、心臓がつぶれそうになるほど恐ろしいものだった。あれでは、真面目に運転している車のドライバーがたまったものではないだろう。

 では、実際に「ながらスマホ」はどれぐらい危険なものなのだろうか。
 本書は、実際の事件を例にとり、その危険性を徹底分析した科学ノンフィクション小説だ。
______________________

 主人公は、19歳の少年レジー。
 彼はある日、交通事故を起こし、2人の男性の命を奪ってしまう。2人とも家庭の良き夫であり父親であった。

 レジーは事故当時の記憶がないと言うが、警察はレジーの様子を見て、運転中に携帯メールを送信していたのではないかと疑う。
 レジーはしらを切りとおし、謝罪の言葉を述べようともしないが、その後の調べにより、レジーが女性と携帯メールをやりとりしながら運転していたことが明らかになる。
____________________

 これほど、「読んで良かった・・・」と心から思えたノンフィクション小説はない。
 本書の骨子は犯人探しではなく、あくまで「ながらスマホ」の危険性の分析だ。
 捜査官や司法の専門家、そして研究者らはレジーの裁判を通して「ながらスマホ」がどれほど人間の注意力を奪うかを調査分析していくのだが、その結果には慄然とする。

 「ながらスマホ運転」をしている人は、飲酒運転による死亡事故のニュースを観て怒りと悲しみを覚えるだろう。ながらスマホをしている人でも、「飲酒運転なんてとんでもない!」と考える人は多いだろう。

 しかし実は、「ながらスマホ」は飲酒運転と同じぐらい、いやそれ以上に危険なのである。
 細かい分析結果は本書をお読みいただくとして、この本に一度でも目を通したら、誰もが、レジーのこの言葉に打ちのめされるだろう。 

「事故のとき、私はメールメッセージのことしか考えていませんでした。皆さん、これまでに送信したり受信したりしたメッセ―ジのことを一つひとつ考えてみてください。そのためなら自分や他人の命を差し出してもかまわないというメッセージがひとつでもあるでしょうか?」


 こう聞くと、「これは携帯メールの話であって、電話での会話やポケモンGOは大丈夫なのでは?」と考える人もいるだろう。
 しかし、この事件をめぐる様々な実験、そして他人の人生も己の人生も壊してしまったレジーの訴えを読めば、そんな開き直りともいえる呑気な考えは決して許されないことがわかる。

 スマホやゲームの技術には、確かに目を見張るものがあるだろう。しかし実は、それを作り上げた人間の注意力・集中力は、技術に追いつけていない。私たちが思っている以上に、人間の能力の限界点は低いのだ。
 そこを認識できれば、きっと安全に楽しくスマホと付き合うことができる。本書からは、「ながらスマホの危険性」と共に、そんな「技術×人間」のバランスを学ぶことができる。
 その点で、「スマホ社会」を生きる者として「読んで良かった」と、心の底から思えたのだ。このような本を世に出してくれた著者マット・リヒテル氏には、感謝の気持ちでいっぱいだ。

 巻末には、愛知工科大学工学部教授・小塚一宏氏による「ながらスマホ」の実験・計測データも掲載。「歩きスマホ」だけで、これほどまでに視野狭窄と注意力低下が起きるのかとただただ驚かされる。本編だけでなく、こちらの解説も必読である。

詳細情報・ご購入はこちら↓


関連記事
プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

最新記事
シンプルアーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
RSSリンクの表示
QRコード
QR

書評・レビュー ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村
カテゴリ
広告
記事更新情報
リンク
広告