「背の眼」 道尾秀介

 「死よりもさらに恐るべき危険とは、多くの場合、世界と自分との関係の破綻にほかならない。理想と現実との、どうしようもない不一致-。それを思い知ることによって世界と自分との間に破綻が訪れる。そしてその破綻が訪れたとき、人は絶望する。生に絶望したとき、人は生からの逃避に向かう」(本文引用)
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 「この作家は来る!」・・・そう思わせる新人作家が、たまにいる。
 
 ただ過激な言葉を並べ、ただ感動的なストーリーを作り上げ、ただ話題性をねらった、などというレベルではない。
 品のある豊潤な言葉で、膨大な量の知識を巧みに操り、骨太のストーリー展開で読者の眼をページからそらさせない。
 おそらく、この作品が出版された時、「この作家は来る!」と多くの人に確実が思ったであろう。
 かくして、その著者は後にハイスピードで直木賞をはじめ数々の賞を受賞し、今や押しも押されもせぬ人気作家となった。

 ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作「背の眼」
 道尾秀介のデビュー作である。
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 主人公は若き小説家・道尾秀介。
 道尾はある日、ふと旅に出たくなり、東北の温泉宿に出かける。
 行き先は白峠村。料理が美味く、眺めが最高とのキャッチコピーに惹かれての旅だった。

 しかしそこでは、数年前から陰惨な事件が起きていた。
 何人もの幼い少年が行方不明になり、うち1人は首だけの死体があがっているという。
 そしてまた、それと併行するように不可解な事態が発生していた。
 白峠村付近で撮影された写真の人物の背中に、次々と眼のようなものが映りこみ、その人物はことごとく自殺してしまっているというのだ。




 その謎に出会った道尾は、旧友である心霊探偵(?)真備庄介とともに解明に乗り出す。

 連続殺人事件はなぜ起こったのか?背中に映った眼は、いったい誰の眼なのか?
 この村には、いったい何が隠されているというのか?
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 まず驚いたのが、プロットの緻密さである。

 この物語の謎は、「背中に写りこんだ眼は、誰の眼なのか」「その眼が写ってしまった人は、なぜ自殺してしまうのか」であるが、何より最大の謎は「なぜ連続殺人事件は起きたのか」である。
 
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 作品では、主にその謎について、登場人物たちの過去の言動や村に伝わる慣習など実に数多くの伏線から、真相が徐々にあぶりだされていく。
 
 家族を亡くした旅館の主人、被害者の少年の祖父、孤独のなかで死んでいった認知症の母と息子、事件の鍵をにぎる小学生、村中の誰もが知る天狗伝説・・・。

 彼らが無意識で起こした行動や発した言葉、そして村の歴史などを振り返りながら1つひとつ確実に謎を解いてゆく様は、すでに完成しているジグソーパズルを壊し、再び自らの手で1つひとつピースを当てはめていくような、たまらない快感を与えてくれる。


 それは、ホラーとミステリーが見事なまでに融合しているせいだろう。
 ホラー小説なのだから、もう少し不条理なこじつけや曖昧さがあっても許されるところなのに、道尾氏はそうはしなかった。
 全ての謎に対し、ほぼ完璧なまでに納得のいくタネ明かしをしており、もはやホラーの枠にはおさまらない、れっきとしたミステリー小説といえる。
 たしかに憑依現象などは、純粋なミステリーでは禁じ手といわれるかもしれないが、プロットの緻密さがそれを補って余りある説得力を引き出している。いや、本当にこれは見事としか言いようがない。

 ちなみに、道尾氏がこの作品をもってホラーサスペンス大賞に応募したのは、選考委員に綾辻行人氏が加わったためだという。綾辻氏の「霧越邸殺人事件」のミステリとオカルトのバランスの素晴らしさから、綾辻氏に読んでもらいたいがために本作を投稿したらしい。
 結果、矢は見事に的を射抜いたといえるだろう。


 さらに注目すべきは、その文章のうまさだ。
 理屈では説明できない超常現象を扱っているにもかかわらず、妙にストンと腑に落ちる説得力。クセのない流麗な文体。とくに驚いたのは、全くと言ってよいほど手垢のついた表現がないことだ。
 以前、「小説すばる」で道尾氏は、「あまり本を読んでこなかった」と語っていたように記憶しているが、それならばよほどの天才か、「本を読む」というレベルが途轍もなく高いかのどちらかであろう。(両方かもしれないが)

 「この作家は来る!」・・・そう思わせて10年も経っていない俊英・道尾秀介は、すでに「道尾秀介」というジャンルを作りつつある巨匠への階段を昇っている。
 しかし、どこか世の中を斜めに見ているような道尾氏は、その階段を自ら壊し、新しい階段を作りながら進んでいくのだろう。

 その階段の一段目であった当作品「背の眼」
 本作品が世に出た瞬間、それは、時代に背を向けながらも、両の眼で時代を見据える “天賦の才をもつ異端児”が産声を上げた瞬間だったのだ。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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