二重生活  小池真理子 

評価:★★★★★

「こういうことが言えるのではないでしょうか。尾行している側は、決して対象者と接触しようとしてはならず、また、尾行されている者は決して振り返ってはならないのだ、と。それがこの種の尾行の鉄則なのです」
(本文引用)
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  最後の2ページで、ザァッと体中に鳥肌が立った。
 ラストを迎え、読者がすっかり油断しているところを背後からいきなり肩をつかみ、また物語の世界に有無を言わせず引きずり込む。これほど見事なラストは、そうそうないだろう。

 この小説は映画化され、現在公開中だが、やはりこの小説と同じような終わり方をしているのだろうか?
だとすれば、ラストに入った瞬間の観客たちの表情は見ものだ。みな目を剥き、息をのんで「まさか・・・!?」という顔をしているに違いない。
 それを観るためだけに、今すぐ映画館に向かいたいとウズウズしている私は、この本の主人公と同じぐらい危ない人間なのかもしれない。



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 主人公の白石珠は、大学の仏文科に通っていた頃の書物に影響され、ある行動に魅入られる。

 それは、「文学的・哲学的尾行」。

 ストーカーや探偵と違い、相手は誰でもよい。とにかく他者の後をつけることで、他者の人生を疑似体験し、自分と置き換えながら、他者の行動を記録するというものだ。

 以前から珠は、近所の幸せそうな家族が気になっていた。そんなある日、珠はその家族の父親、石坂史郎の不穏な行動を目にする。以来、珠は徹底的に史郎の尾行を続け、記録をとりつづける。

 しかしそれは次第に、珠のプライベートや心理状態を蝕んでいく。
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 目的のない尾行、相手と接触したいわけでもプライベートを知りたいわけでもなく、尾行そのものが目的となっている尾行。
 それをすると人間はどうなっていくかという、まるでスタンフォード大学で行なわれる心理学実験のようなストーリーだ。
 しかし、その「実験」を描くようなクールな筆致が、また読む者の心をざわつかせる。

 史郎の人間関係のトラブルが、珠の心に影を落とし、珠と恋人との関係が悪化していく。
 珠はまさに書物で読んだとおり、尾行をすることで、無意識的に他人の人生を疑似体験してしまっているのだ。
 そんな珠の変化は、読んでいて悶絶するほど面白い。そして、恐ろしい。

 さらにクライマックスとして、いよいよ珠と石坂との対決が描かれるが、その二人の丁々発止の会話と関係性の変化が予想外の連続で、全く目が離せない。
 「こんなことってある?」と思いつつも、「こんなことってある、あってしまう」のが人間なのかもしれない。人の心とは、理屈では説明できないものなのだ。

 そして問題のラスト。「完全終了」と思ってうっかりページを閉じようとしていた私は、もう一度あわてて本をめいっぱい開くこととなった。
 単なるどんでん返しなどとはちょっと、いやかなり違う異色の衝撃に、私はすっかり魅入られた。そして気づけば、また1ページ目に戻っていた。
 私は図らずも、この小説を尾行することになったのだ。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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