キッチン・ブルー  遠藤彩見

評価:★★★★☆

どんなに好きな人といても、お腹が空いていれば幸せにはなれない
(本文引用)
_______________________________

  結婚して10年以上経つが、未だに食事の時間が不思議だ。なぜ、夫と子どもは私が作ったものを食べてくれているのだろう。まさか私が毒を盛るなどとは思っていないだろうが、プロの料理人でもない他人が作ったものを何の疑いもなく食べるというのは、相当の、いや絶対の信頼関係がないと難しいだろう。

 ご飯を作って一緒に食べる。何気なくやっていることだし、億劫になることもあるが、それはやはり途轍もなく幸せなことなのだろう。――「キッチン・ブルー」は、そんなことを改めて認識させてくれる小説だった。
______________________

 本書は、6編からなる短編集。全て「食」にまつわる物語だ。



 たとえば第一話「食えない女」は、人前でどうしても食事ができず、ほぼ引きこもり状態になっている女性を描いたストーリー。
 他人がいると食事ができないため、男性に好意を抱いても将来を絶望視するが、この障害が意外な福を呼び込む。

 他、マンションの騒音によるストレスで味覚障害を起こす女性や、料理下手に真剣に悩み苦しむバリキャリ女性、料理で承認欲求を満たそうとする女につきまとわれる目立ちたがり屋の男性など、「食」に魅入られ「食」に見捨てられ「食」に救われる人間たちの大行進が続く。

 そんな異色の物語のなかで、特に印象的なのが第4話「七味さん」。
 フラワーアレンジメント教室で事務を担当する男性・大前は、立ち食いソバに盛大に七味をかける美しい女性を好きになる。
 
 その一方で、大前は教室の講師たちの勢力争いに頭を痛めていた。
 展示会が近づくなか、大前は古株の講師2人の女性のうち、どちらかを女王に決めなくてはならなかった。それによって作品の配置が変わってくるからだ。

 どうすれば、女王気取りの講師たちの機嫌を損ねずに、真の女王を決めることができるか。大前は悩みぬいた挙句、妙案を思いつく。それは、食事をする「七味さん」を見つめていたおかげなのだが・・・?

 食事に関する物語と言えば、ひたすら美味しいメニューが出てくる(はたまた壊滅的にまずいものが出てくる)内容を想像するが、「七味さん」は全く違う。
 「食べる」という行為そのものを、もっと本質的にとらえた内容で、「こういう『食』のとらえ方があったのか!」と目を開かされた。

 万が一、何か組織でトラブルが起こりそうだったら、何か食べ物を出してみるのがお薦めだ。そういえば、会議でちょっとしたお茶菓子を出すのは非常に有効と聞いたことがあるが、それにはこんな理由が隠れているのかもしれない。「食べる」こととは、何と人間の根源に根差していることか!

 「キッチン・ブルー」というタイトルどおり、どの物語も、食事や料理に対してブルーな気持ちから入っていく。
 果たして、そのブルーな気持ちがどのようにバラ色に変わっていくか。その変色の経緯を、とくと味わってみてほしい。

詳細情報・ご購入はこちら↓


関連記事
プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

最新記事
シンプルアーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
RSSリンクの表示
QRコード
QR

書評・レビュー ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村
カテゴリ
広告
記事更新情報
リンク
広告