脳が壊れた  鈴木大介 

評価:★★★☆☆

「鈴木君さあ、リハビリっつうのはさ。あの、なんつうかな? そうそう、あ~れ、駄菓子屋のくじ引きなんだよね。」
(本文引用)
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  本書を読み、途端に親としての重責を感じてしまった。子育てではなく脳梗塞の本を読んだのに、「なぜ親としての責任?」と思われることだろう。しかし、実はこれが見事につながっている。

 41歳で脳梗塞を起こし、「指が動かせない」「真正面から人を見ることができない」といった様々な後遺症を負った著者の姿は、そのまま「正常に育つことができなかった子ども」の姿らしい。
 
 そんな青少年たちを取材してきた著者自身が、まさにその状態になったときに、いったい何が見えたか。本書は、病気ドキュメンタリーの範疇をはるかに超えた、人間と生き方全てを見据えた異色のドキュメントである。
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  著者の鈴木大介氏は、フリーのルポライターとして活躍。家出少女や貧困層の若者たちに焦点を当てた取材を続け、「再貧困女子」はベストセラーとなる。

 そんな鈴木氏の生活は多忙を極め、妻に「もうすぐ倒れる」と宣言をしていたほどだったが、ついにそれが本当のこととなってしまう。
 ろれつが回らず、指も動かず、視界も定まらない状態で、著者は脳神経外科に入院。そこでは半側空間無視という症状が現れ、自分が入ったトイレ個室に老紳士が座っているという様々な症状に悩まされる。
 
 そしてリハビリを続けるうちに、著者は今まで取材してきた子どもたちに思いを馳せ、自分の生き方や妻への思いを振り返る。
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 冒頭でも書いたが、本書を読むと、親への感謝や親としての責任という気持ちがドドォッとわきあがる。

 それは、「生命にかかわる病の話だから」ではない。「脳にかかわる話」だからだ。

 著者は、脳梗塞で脳の一部が壊れた経験を経て、初めて取材してきた青少年たちの動きを理解できたという。
 生まれた時から機能不全家庭で育ち、帰る家がなく街をフラフラする子どもたち。著者にとって、彼らの目つきや指の動き、文章をちょっと目にしただけで昏倒してしまう様子は理解に苦しむものだった。
 しかし著者は、同じような状況に陥ったことで、改めてその子どもたちを理解していく。そして、リハビリを通して機能を回復させていく己の姿と、正常な社会生活を送れるようリハビリをしなければならない子どもたちとを重ね合わせていくのである。

 このくだりを読み、私は自分の子どもや街行く人々の見方がガラリと変わった。
 誰も独りでは育つことはできない。親から適切な愛情を受け、躾をされることで、人間の脳は形成されていく。それが著しく欠損すると、いくら正常な脳で生まれてきても、まともにスプーンを持つことすらできず、柔らかな表情で人と真正面に向き合うこともできないのだ。

 本書を読む限り、著者はその発見におおいに驚き興奮したようだが、私にとっても驚き興奮し、そして学ぶところの大きいものだった。
 普通に学び、普通に働き、普通に人と話せること。そこに到達するまでに、どれほど「保護者による脳の訓練」があったことか。
 無意識に与えている愛が、脳の形成にこれほど不可欠なものだったとは・・・と親として打ちひしがれる思いであった。

 本書からは、脳梗塞を起こすとどのようになるか、また、脳梗塞予防の生き方・考え方なども学ぶことができる。
 しかし、病気という範疇を超えて、社会で生きていく者として、脳はどのような役割をするか、そしてそれを適切に形成していくためにはどうすれば良いかを学べたという点で、本書から得た収穫は多い。

 個人的に、子育て中の方にお薦めしたい一冊である。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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