パークアヴェニューの妻たち  ウェンズデー・マーティン

評価:★★★★☆

  「世間なんてそんなものよ。女友だちが落ちぶれたら、“自分が溺れないように必死で泳ぎきる”しかないから」
(本文引用)
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  マザー・ウォーズ、ここに極まれり!

 「ドロドロしたママ友」ものの物語は、昨今のヒットドラマやベストセラー小説の定番だ。
 しかし、本書の表紙にも書かれているように「現実は、想像をはるかに超える」。世界屈指のブルジョア地区で繰り広げられる“実録”マザー・ウォーズは、どんな小説家にも脚本家にも描けないほど醜悪でぶっ飛んだものなのだ。

 これは、ある女性ライターが人類学的見地から観察・分析した、究極のママ友ドキュメントである。
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 著者ウェンズデー・マーティンは、認識を機に、アメリカ中西部からニューヨークの超高級住宅街アッパー・イーストサイドに引っ越した。
 その場所を選んだのは、生まれてくる子どもを良い公立学校に入れるためだったが、実はそのスタート地点から、彼女は間違っていた。少なくともその場所では。

 アッパー・イーストサイドで目の当たりにした、子どもたちと母親たちの日常は異常なものだった。
 子どもたちは専属運転手や自家用ヘリで数えきれないほどの「お教室」に通い、コンサルタントに付いてお友だちとの遊び方を学ぶ。
 母親たちはモデル並みの容姿を求められ、摂食障害になりそうな食生活と過酷なエクササイズをこなす。そして子どもたちの送迎や誕生日パーティーには、つんのめりそうなほど踵が高いハイヒールと、目玉が飛び出しそうなほど値段が高い毛皮のコートで現れる。

 そんな奇怪な世界に驚愕した著者は、大学で人類学を専攻した知識を生かし、「パークアヴェニューの妻たち」の動向を観察することに徹する。
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 一言でいうと、まあ、今はやりの「ママ友もの」である。「ママ友もの」の小説やドラマにはもう飽きた、という人も多いだろう。
 しかし、本書は一味も二味も違う。そこはやはりノンフィクションの強みであろうか、「本当に『事実は小説より奇なり』だな」と唖然茫然愕然とするようなエピソードが満載である。
 
 なかでも興味深いのが、「登場人物たちの驚くべき心の変化」だ。
 たとえば、エルメスのバーキンにまつわる著者の変化が面白い。
 マンハッタンの歩道を歩いていた著者は、ある日、見ず知らずの女性にわざと接触される。その女性は、著者の腕に高価なバッグをわざとこすらせ、笑いながら去っていったのだ。

 それを人類学的な攻撃行動と分析した著者は、街を観察してみると、あらゆる場所で女性同士が攻撃しあっていることに気づく。
 そのような攻撃現象を見ているうちに、著者の心に思いもよらない変化が起きる。熱に浮かされたように、エルメスのバーキンを求めるようになってしまうのだ。

 その“事件”は、リアルさといい人間心理の不可思議さといい、創作では到底書けないものではないかと思う。
 ある社会に入り込み、そこに染まらなければと気がはやると、人間はここまで変わってしまう。その恐ろしさを垣間見た気がし、背筋が凍った。

 しかし、もちろん“思わぬ良い変化”もある。
 それは終盤に濃密に描かれているのだが、それまでの目を覆いたくなるような“醜いマザー・ウォーズ”を一掃するような出来事である。
 これも著者が人類学的に分析しているが、人間、どんなに歪んでも善の心を持っている。決して捨てたものではない存在なのだ。

 華麗なる異常なママ友世界を濃縮還元100%で描いたノンフィクション「パークアヴェニューの妻たち」。
 子育て真っ最中のお母様、妻の苦しみを少しでも共有したいとお考えのお父様、そして、人間不信に陥りつつも人間を信じることを諦めたくないとお考えの方に、ぜひ読んでいただきたい一冊だ。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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