ブラックスワンの経営学 ~通説をくつがえした世界最優秀ケーススタディ~  井上達彦

評価:★★★★★

 ひとたび、その「ありえない」が起こると、事後的にそれがなぜ起こったのかの説明がなされ、あたかも事前に予測できたかのように語られます。そして、うまく説明できてしまうことで、人は「次は予測可能だ」と勘違いしてしまいます。
 そして、その勘違いが、次の「ありえない」をもたらします。

(本文引用)
________________________________

 先日、北海道で7歳の男児が山に置き去りにされ、行方不明になった。
 その事件をニュースで知った当初は、家族で「翌日には見つかるだろう」などと話していたが、これがなかなか見つからない。

 刻々と日にちは過ぎ、自衛隊のローラー作戦まで行なわれたが、6日ぶりに無事保護。男児は山に登り、不明現場から約5キロもある自衛隊演習場の小屋でずっと過ごしていたという。

 とにかく男児が無事だったとのことで安心したが、この出来事も「ブラックスワン」といえるかもしれない。
 男児の行動は、専門家や捜索隊にとって想定外のものだった。今後、また子どもが行方不明になった際には、このブラックスワンの事例をもとに捜索の仕方も変わってくるのではないだろうか。



_________________________

 世の中には、全く予想していなかったことや、理解に苦しむことが数多くある。いや、そのような事例が目立つだけで、それほど多くはないのかもしれないが、時々ある。

 なぜ、あの宗教の信者はなおも教祖を信じ続けるのか、なぜ、あの地域で大地震が起きたのか、なぜ、あの商品が売れたのか。
近々地震が起こると予想される地域で地震が起きたり、売れるべくして売れる商品が売れたりするのは、いわばホワイトスワン。統計学的に予測できるようなものだ。

 本書で扱うのは、その逆。「まさか!」「ばかな!」と思うようなブラックスワンの事例を取り上げ、その原因をとことん追究し、「なるほど!」に変えていく。

 「経営学」などと聞くと、とっつきにくいような気がするが、本書に登場する事例はいずれも非常に身近なものなので、非常に読みやすい。
 たとえば、今でこそ当たり前になっている、スポーツ時の水分補給。以前は「水を飲むなんて怠けてる」といった風潮があったが、そこにブラックスワンが現れる。スポーツドリンクを飲むプロスポーツ選手の姿が見られるようになり、それが後の「水分と塩分摂取による熱中症予防」につながるのである。

 さらに興味深いのが、宗教団体の信者の事例。その宗教団体の予言がいくら外れても、信者の信仰は深まるというものだ。
 本書では、そのような団体をいくつか見つけ出し、それらの特徴から「予言が外れても、信者の信仰はなおも深まる」団体の特徴を、観察と実験により洗い出していく。

 他、38名もの目撃者がいたなか、1人の女性が暴漢に襲われ助けを求めたが、誰も助けなかったという事例も紹介される。これも「そんなばかな!」と声を震わせて叫びたくなるようなブラックスワンの事例だが、その裏にある人間心理をじっくりと検証していくと、「なるほど」と納得できる。

 9.11のテロや阪神淡路大震災といった事件・事故・災害、そして通説を覆す売り方をしたことで、爆発的に売れ行きを伸ばした商品等、世の中にブラックスワンは時々舞い降りてくる。
 そして、いつしかそれは人々の想定内に入るホワイトスワンへと姿を変え、「当たり前」になっていく。その「当たり前」になってからが、人間の本当の勝負なのだろう。読みながら、経営学云々以前に、人間として身が引き締まる思いがした。

 今回の7歳男児の行方不明も、「小2の子どもがここまで歩けるわけない」といった通説を完全に覆したブラックスワンの事例であろう。
 今はただ、児童の体力の回復とともに、この事例が今後の同様の事件に活かされるよう願うばかりである。

詳細情報・ご購入はこちら↓

関連記事
プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

最新記事
シンプルアーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
RSSリンクの表示
QRコード
QR

書評・レビュー ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村
カテゴリ
広告
記事更新情報
リンク
広告