テミスの休息  藤岡陽子

評価:★★★★★

 「人なんて自己中心的なもんですよ。相手の立場や周りの状況を考慮する人間ばかりなら、法律なんて必要ないですし」
(本文引用)
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 外で読めない本というものがある。おかしくて吹き出してしまうような本と、胸が痛くて熱くて涙がこぼれてくる本。本書は、その後者にあたる。

 タイトルの「テミス」とは、正義の女神のこと。片手に天秤、片手に剣を持つ女神像は、法律の公正さと厳格さを表すものだが、人間の行ないはそれだけでは測れない。
 複雑で摩訶不思議な人間模様を、法律からちょっと外れた視点から解決していく本書は、まさにタイトル通り「テミスに休息を与えたもの」なのだ。
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 主人公は弁護士・芳川有仁と事務員・沢井涼子。



 ある日、芳川法律事務所に一人の女性が相談に来る。恋人を婚約不履行で訴えたいというのだ。
 有仁と涼子は、女性の訴えを受け入れ、慰謝料を請求する内容証明郵便を送るよう手続きをする。
 しかし涼子は、依頼人の女性と触れ合ううちに心が揺れ動く。
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 本書は6編からなる短編集で、それぞれ異なる事件が起こる。
 弁護士が主人公ということで、ややサスペンス風味もあるのだが、とにかくどの物語も温かい。

 依頼人は、誰も彼も陰のある人生を送っている。
 隠したい過去があったり、後ろめたいことがあったり、現在生活に窮していたり、最愛の息子を亡くしたり・・・。日常生活のなかで心から笑うことなどあるのだろうか、と胸中を察するに余りある艱難辛苦を経ている人たちだ。

 そこにようやく笑顔をもたらすのが、有仁と涼子の仕事だ。
 法律で仕事をしながらも、法にとらわれず人間そのものを見ていく有仁と、それに同調する涼子。
 その絶妙なコンビネーションがもたらす結果は、慈悲と愛情に満ちたもので、ただただ爽やかだ。

 なかでも、第2話「もう一度、パスを」には泣いた。
 不良少年に巻き込まれた形で事件を起こし、少年院に入っていた男性が、ひょんなことから知人を死なせてしまう。
 また振り出しに戻ってしまったことを悔やむ男性に、周囲の大人たちがある行動をとる。

 小説を読む醍醐味のひとつに、人間を信じられるようになることが挙げられると思うが、これはその代表作。
 もしも今現在、人間や世の中に絶望していたら、騙されたと思ってこの物語だけでも読んでみてほしい。

 他の5編も人肌の温もりあふれる物語で、読み終えた時には「もっともっと、いつまでもこの小説にひたりたい」と切に思った。
 ぜひ続編を出してほしい。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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