田舎の紳士服店のモデルの妻  宮下奈都

評価:★★★★★

 どんなに自分が特別だと思いたくたって無理がある。
(本文引用)
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  「羊と鋼の森」で本屋大賞を受賞し、がぜん注目を浴びている宮下奈都氏。
 各書店で宮下作品が平積みになっているが、その中で目を引いたのがこの小説。

 高級陶器人形リヤドロを思わせる、美しくもどこか悲しい装丁とタイトル。この、どこか触れてはいけないような不穏な空気に吸い寄せられて、本書を購入した。
 で、読み終えた今、私はこう叫びたい衝動に駆られている。

 「宮下奈都さん、いいよ!いいよ!いいじゃない!!」
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 主人公の竜胆梨々子は、東京でちょっと良い暮らしをしている専業主婦。子どもは男の子が2人おり、上の子はいわゆる評判の良い幼稚園に通わせている。



 しかし夫がうつ病になったため、急きょ夫の故郷で暮らすことに。
 梨々子は都落ちした気分で悶々とするが、自慢の美貌を誉められることで何とか自分を保とうとする。

 そんなある日、竜胆家にモデルの依頼が舞い込む。
 まんざらでもない思いで喜びを押し殺そうとする梨々子だが、何とそれは、夫への依頼だった。
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 この物語は、特に大きな事件が起こるわけではない。ひたすら梨々子の心情や行動が語られる内容となっている。
 それなのに、全く飽きない。飽きるどころか、梨々子の心の中にどっぷり没入し、もっと梨々子のことを見つめていたいとすら思える。

 それはきっと、宮下氏が言葉の魔術師だからだ。夫への失望、ママ友への嫉妬、子どもにかける期待、近所づきあいの煩わしさ、そして、そんな心の隙間に入りこんだときめき・・・。
 それぞれは小さな出来事だが、そのたびにざわつく梨々子の心情が、驚くほど言葉巧みに描かれているのだ。

 どれもこれも今までほとんど聞いたこともないような表現なのに、読むと「わかる、わかる!」と膝を打ちたくなる言葉の数々。それはいわば、考えたこともないような食材の組み合わせが、思いもよらぬ美味しさだったような感動だ。
 「羊と鋼の森」も素晴らしい小説だったが、言葉の使い手という意味ではこの本のほうが良い。すごい小説家もいたものだ。

 今現在、どこか自分を特別だと思っている人や、それに縛られて窮屈な思いをしている人に、ぜひ読んでほしい一冊。
 そう自覚している人は、読む必要がないのかもしれないけど。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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