未成年  イアン・マキューアン

評価:★★★★☆

 「あの子はもう決心しているのよ。ほんとうに感心するわ。自分の信念のために生きようとしている、というのかしら」
「死のうとしている、でしょ!」

(本文引用)
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 この小説を読み、自分にとっていちばん大切なものが何かわからなくなってしまった。

 今までは単純に「いちばん大切なものは?」と聞かれれば「命」と答えていた。もちろん子どもや夫も大切だが、やはり何と言っても「命」。命がなければ元も子もない、と疑うことなく考えていた。

 しかしこの物語を読み、命の優先順位というのは意外と低いのではないか、という気がしてきた。無論、だからといって命を粗末にして良いわけでは絶対に、ない。
 だが、命よりも大切なもの、これがなければ命があっても仕方がない、と言えるものが、世の中には案外多く眠っているのかもしれない。そう思ったのだ。



 こんな思いにとらわれたのは、生まれて初めて。だから私は今、少々戸惑っている。
 そこが、「未成年」が問題小説といわれる所以であろう。
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 主人公は女性裁判官フィオーナ。彼女は毎日、生命と倫理を秤にかけるような事件と向き合い、判決を下している。一方私生活では、夫が若い女性に夢中になり、離婚の危機に直面している。

 そんななか、フィオーナのもとにある案件が舞い込む。
 白血病で、すぐにでも輸血が必要な患者がいるのだが、両親が宗教上の理由で輸血を拒否しているという。患者は成年には数か月足りない少年らしい。

 輸血のタイムリミットが迫るなか、フィオーナは少年と対峙しながら結論を出していく。信仰と生命と法との間を揺れ動きながら。
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 この物語は、単純に生命と信仰の二者択一を迫っているように見えるかもしれない。しかし、本書はそんなに単純なものではない。
 「生命と信仰どちらをとるか」・・・確かにそれもテーマのひとつであり、その選択も見どころではあるのだが、実はその先に、もっと大きな選択と決断がある。
 それはちょっと衝撃的なもので、とてもここでは書けないのだが、「生きる意味」というものを大いに考えさせられる展開だ。

 本書を読めば、誰もが「何をもって、私は『生きている』と言えるか」「生きる喜びとは何か」という疑問を、己に投げかけることだろう。何度も何度も、死ぬまで投げかけつづけることだろう。
 
 物体としての生死と、心ある人間としての生死、さて自分はどちらを選ぶか。
 今の自分にとって、生命を失うよりも辛いものが案外あるのではないか、あるとしたら何か。
 
 まず「生命」を大事にすることを念頭に置きながらも、そんなことをうんと考えさせられた一冊だった。
 やはりこれは、問題小説だ。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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