茶色のシマウマ、世界を変える ~ISAKをつくった小林りんの物語~  石川拓治

評価:★★★★★

 もっとも彼女には、ジョブズのスピーチを聞く必要はなかった。「あなたの心と直感は、どういうわけか、あなたが本当になりたいものをすでに知っている」というジョブズの言葉通りの人生を生きていたわけだから。
(本文引用)
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 インタビューを交えたノンフィクションのなかでは、ここ数年で断トツに面白かった。いや、今まで読んだなかで一番かもしれない。

 世界中の貧しい子どもたちに教育の門戸を開いた、日本初の全寮制インターナショナルスクールISAK。
 経済不況による資金不足、付近住民の抵抗、東日本大震災・・・様々な壁にぶつかりながらも、貧困の連鎖を断ち切りたい、社会を良い方向に変えたいという無私の情熱ひとつで、前代未聞の学校を作った人物・小林りん。
 
 本書は、5年におよぶインタビュー取材で書かれた、小林りんの物語である。



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 幼少期から聡明だった小林りんは、毎年東大に100人前後入る進学校に通っていたが、思うところあって高校を中退。カナダの高校に留学する。

 そこで彼女は、人生を変える経験をする。
 夏休み、メキシコ人の友人の実家に行くと、そこには日本では考えられないような荒んだ光景が広がっていた。そこに横たわるのは、教育が行きわたっていないが故の貧しさだった。

 そこで、りんは思う。自分の生まれ育った環境が、いかに幸運なものだったかを。そして語る。 

「この幸運は自分のためだけに授かったものでは絶対ないはずだって、すごく思いました。そういう人間が果たすべき使命みたいなのを感じたと言えばいいか。とにかく自分の能力とか、いろんなチャンスをもらっていることも含めて、自分のためだけにその幸運を使っていくような人生には絶対ならないだろうなっていうことを、そこで漠然と予感したんです」

 そこから彼女は、ISAK創設へ一直線に突き進む。
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 とにかく、小林氏の情熱とパワー、そして一分の利己心もない率直さと善良さに圧倒される。小林氏と出合った人は誰もが「小林りん」という人物に惚れ込み、彼女に手を貸そうとするというが、それも納得。世の中に、こんな人間がいるのかと後頭部を殴られたような衝撃を受けた。

 そうして差し伸べられた手により、不可能といわれた学校づくりが可能になっていくのだが、その経緯を読んでいると、人間とはかくも美しいものかと胸が震えてくる。
 貧困、差別、戦争・・・日本にいれば見て見ぬふりができる出来事を、真正面から見つめ、全てを投げ打つ覚悟でぶつかっていく。
 小林氏をはじめ、そういう信念を持つ人がこれほど多くいるという事実に、心を大きく揺さぶられた。読みながら、何度胸がカーッと熱く、涙がこぼれ落ちそうになったことか。ノンフィクションで、ここまで体全体がほてった本はない。

 さらに本書の素晴らしいところは、著者・石川氏の見解がしっかりと書かれている点である。
 小林氏をただひたすら誉める、といったものではなく、小林氏の行動や理念を十分に咀嚼し、それに対する石川氏の考えをしっかりと書いている。
 そう書くと「事実と意見をごっちゃにしている」と思われるかもしれないが、それとは違う。
 小林氏の行動について、その原点となる時代背景や世界情勢を解説し、ジャーナリストの目線から密に書いていく。それにより、小林氏がなぜそのように行動したのか、なぜこのような学校を作ろうとしたのかが、非常によく伝わってくる内容になっているのだ。
 だから、この物語は夢のようなサクセスストーリーでありながら、夢のようなサクセスストーリーになっていない。
 地に足のついた、誰でも納得のできる成功秘話になっているのである。だからだろう、読んでいて非常に気持ちがよい。

 ISAKを卒業し、社会に飛び出した子どもたちが、今後どのような活躍を見せてくれるのか楽しみで仕方がない。

 「頑張れ、世界の子どもたち!」

 私は心の中で何度もそう叫びながら、最後のページを閉じた。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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