「大地」

 いまの世の中では、何一つ確かなものはない。元は不安だった。この新時代に、何かが自分のものだとはっきり言える人間がいるだろうか?彼には二本の手と、頭脳と、人を愛する心以外、何一つ確実に自分のものだと言えるものはなかった。(本文引用)
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 何年も変わらないものとは、何だろう。
 何年も、人が持ち続けるものとは、何だろう。

 時代は常に変動し、それに伴って人々の価値観も変動する。
 しかし、時代に翻弄されるものとは、一時代が過ぎ去ると同時に、あっさりと崩れ去るものである。

 では、時を経ても変わらぬもの、崩れぬものとは何か。
 その答が、ここにある。
 ある家族の、何世代にもわたる姿を綴った物語「大地」

 ノーベル文学賞受賞者パール・バックが送る、不朽の名作である。


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 時は19世紀末期、清朝衰退の時代。
 中国は人口急増により経済は停滞、食料供給は逼迫し、ごく一部の富める者意外は貧しさにあえいでいた。そして特に農業を営む者は、困窮を極めていた。
 そんな農家の男性・王龍は、とにかく土地を持つことに執着する。
 毎日懸命に土地を耕し、作物を豊富に実らせ、人々に売る。
 王龍は「土地は人を裏切らない」とばかりに、商売で得た銀貨も全て土地に換えてゆく。
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 果たして王龍の目論見は当たり、王龍はその土地一番の長者となる。

 しかし、素朴で勤勉だった王龍は、金持ちになった途端に人が変わってしまう。
 共に働いてきた妻を見捨て、美しい妾を作るようになる。
 そして息子たちは、お金を湯水のように使ったり、あるいはお金が無くなることを異常なまでに心配したり・・・とお金に支配された価値観をもつ人間へと育っていく。

 かくして息子たちは誰も農家を継がず、なかでも三男・王虎は武人として生きることを選び、生まれ故郷に別れを告げる。
 賢く心根が優しい王虎は、いつしか軍閥の巨頭へと出世し、2人の妻との間に男の子と女の子を1人ずつもうける。
 「家を継ぐのは息子」という価値観にとらわれている王虎は、息子のみを可愛がり、娘には目を向けない。

 しかし、時代は確実に変化していた。

 娘を産んだ妻は、王虎の封建的な考えに呆れ果て、娘を連れて沿岸の都会に居を移す。
 それまで常識だった纏足もさせず、娘に学問を身につけさせる、と。

 そして息子である王元も、父親の操り人形ではなかった。

 王虎は何としてでも王元を軍人に育てようとしたが、王元は、闘うよりも詩を書くのが好きな青年だった。
 王虎は息子によかれと思い、生き方も結婚相手も勝手に決めてしまうが、王元は徹底的に反発する。

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 もはや、親に生き方を決められる時代は終わろうとしていた。
 そしてそのとき中国では、国に生き方を決められる時代も終わろうとしていた。

 そんな革命の嵐が吹き荒れる中、王元は革命軍に身を投じた疑いをかけられ、半ば逃亡する形で米国に渡る。
 そこで王元は改めて外から祖国を見つめ、自分の生きる道筋を模索する。
 果たして、王元の選んだ人生とは?


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 とにかくスケールの大きい、超大作である。
 1931年に出版されて以来30カ国で翻訳された世界的ベストセラーなので、読んだ方も多いと思うが、何度読んでもその壮大さと凄みに圧倒される。

 子供に対する親の思いが時代錯誤で、それに反発した子供が新しい世界に飛び出すという物語は数多ある。

 しかし、中国の衰退から動乱期、そして新しい時代の幕開けという数十年もの時を、米国と中国という地球規模の視野で描いているという点で、もはや家族の物語には収まらない歴史書ともいえる偉大さが、この小説にはある。

 これは、著者パール・バックが米国人でありながら中国で育ったという環境のためであろう。

 パールはこの作品を通して、「どの土地に生きていようと、どの時代に生きていようと、人として手にすべきものは何か」を伝えてくれているが、それを伝えるのにここまで長いページ数を要したのは、「自分が東西どちらの人間なのかわからない」という生きにくさを常に感じていたせいではないだろうか。

 その心の葛藤を経て、これほどまでの人間ドラマを作り上げてくれた功績は、文学史上類を見ないものであろう。

 この物語が終末に向かうにつれ、王元は徐々に「自分がいるべき場所」に気づき、そこで何物にも代えられない安らぎを手にする。
 その場面は、波乱に満ちた時代を経てきただけに、深く強い感動を与えるものであり、ラストに王元がつぶやく一言は、何度読んでも涙があふれてくる。

 今も昔も時代や価値観は、中国の大河のごとく常に変わっている。
 その時々で、私はどこに流れ、どこの大地を踏み、どのように生きるべきか、人生の道筋に迷うことだろう。
 全4巻という大長編だが、そんなときには必ず読み返したい名著である。

 (なお、作品中に登場する、王龍の知的障害のある娘は、パール・バックの実娘をモデルにしたといわれている。その娘との生活を描いた作品「母よ嘆くなかれ」もぜひご一読を・・・。)

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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