東京タクシードライバー  山田清機

評価:★★★★☆

「蓮の花の蕾ってのは、みんな水面で咲こうと思って、上を目指して茎を伸ばしていくんだろう。でもよ、水面で花を咲かせられる奴なんて、ほんのひと握りなんだよ。みんな途中で、窒息しちまうんだ」
(「あとがき」より引用)
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  「事実は小説より奇なり」を地で行く一冊。人間がどんなに頭をひねって想像の翼をいっぱいいっぱいに広げても、本書に書かれているような出来事は創作できないであろう。

 これを読むと、人間とは何と残酷で非情な生き物なのかとゾッとする。そして同時に、人間とは優しくて温かい生き物なのかと涙が出る。
 そして結局、人間とは途轍もない不可解さをもった生き物なのだな、と驚かされる。ドキュメンタリーの面白さとは、そういうところにあるのだろう。
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 本書に登場するのは、13人のタクシードライバーだ。
 妻の浮気と離婚調停をきっかけに生活が荒れ、ホームレスや貧困ビジネスをさまよった挙句にこの仕事に流れ着いた者、客から何度運賃や借金を踏み倒されても、人にお金を貸してしまう者、夫が専業主夫となり、タクシードライバーとして日々稼ぐ者・・・。



 誰もが多かれ少なかれ「流転」という言葉が相応しい人生を歩んでおり、それだけでも非常に読み応えがあるが、もっと興味深いのは客の姿。密室という気の緩みもあるのだろうか。客たちはタクシードライバーに対し、身近な人にはとうてい見せられないであろう、別の(真の?)姿を見せる。

 たとえば、あるタクシードライバーには、忘れられない2人の女性客がいるという。
 彼は全く道を知らない状態でタクシードライバーとなったため、客を乗せるのが怖く、タクシーに乗りたそうな人を発見するとスピードを上げて通り過ぎてしまう始末であった。
 そんな彼が出会ったのは「マリア様と閻魔様」。マリア様は、オロオロするドライバーに対し最後の最後まで優しく、一方の閻魔様は、乗っている間中ドライバーを大声で罵倒しつづけたという。そしてドライバーは、彼女を降ろした後、車を路肩に止めてハンドルを抱えて泣いてしまう。

 しかしドライバーは、そんな閻魔大王を決して恨んでいないという。 

「彼女の罵倒を黙って耐えることによって、私は初めてプライドを捨てることができたのです」


 さて、これだけ聞くと、何だか「深イイ話」で終わってしまいそうだが、本書に登場する「本当に恐ろしい人」とは、実はこんなものではない。
 その閻魔様は、人間が想像できる範囲での怖い人だ。おそらく一般社会では常識人として通っている人物であろう。
 しかし、彼らをとことん追いつめる裏社会の人間たちの知恵やカラクリは、想像の範囲を越える恐ろしいものだ。
 もちろん、タクシードライバーが皆、こんな目に遭っているわけではない。しかし、人間が作る闇とは、かくも濃く深いものかと戦慄する。ここまで突っ込んだ話を聞いて、著者の山田氏に命の危険はなかったのかと、本気で心配してしまった。

 今度、タクシーに乗る予定のある方は(タクシーとは図らずも乗るものかもしれないが)、ぜひ本書を読んでみてほしい。タクシードライバーがどんな気持ちで道を見渡し、車を止め、客を乗せ、見つめているか。
 それを知ることで、ドライバーと客ともにwin-winの関係を築き、気持ち良く移動することができるだろう。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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