橋を渡る  吉田修一

評価:★★★★☆

「俺は正しい。なんでそれが分からない。俺は正しい。なんでそれが分からない」
(本文引用)
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  吉田修一氏の本は、新刊が出ると必ず買う。読むたびに、いつも自分のなかの固定観念がひっくり返されるからだ。いや、ひっくり返すよう背中をドンッと押されると言ったほうがよいかもしれない。
 とにかく、吉田修一の小説を読むと、自分のなかにある「~ねばならない」「~であるはず」といったものがガラガラと崩されるのだ。そう考えると、私にとって、本を読む醍醐味を最も味わわせてくれる作家と言えるかもしれない。

 今回の「橋を渡る」も、同様だ。

 自分のなかにある固定観念――たとえば「善と悪」をあえて変えてみると、どんな未来が待っているのか。橋の先の風景は、どう変わっていくのか。渡り切れるのか、途中で落ちて沈むのか。
 本書は、そんな自問自答を存分にさせてくれる。私にとって、今年最大の問題作となりそうだ。



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 この物語は、4章構成の群像劇だ。
 主人公はそれぞれ、ビール会社の営業マン、都議会議員を夫にもつ女性、婚約者とその元彼との仲を疑う男性で、最後は彼らの未来が集結し、エンディングとなる。

 吉田修一作品は、時々ちょっとSFチックになるが、本作もそれが妙味を出している。
 そのヒントは、帯に書かれた「いまなら、未来は変えられる」という言葉。しかもその未来とは、明日明後日の話ではない。70年後、孫の世代になった時に「あの時の選択」がどう響いているのかが明かされる構成になっている。

 それはかなり衝撃的なものだが、特に印象的なのは第2章「夏」の主人公・篤子の未来だ。
 篤子には、都議会議員の夫がいる。ところが、その都議会で先日、たいへんな騒ぎが起きる。女性議員に対し、セクハラと取れるヤジが飛んだのだ。
 そのヤジの主犯はわかったものの、共犯者がなかなか現れない。
 篤子は、そのヤジの共犯者は夫なのではないかと疑いはじめ、ついにこんな歌を口ずさむようになる。 

「謝るな♪ 謝るな♪ このままずっと謝るな♪」

 そして篤子は、世の中が他の騒動で満たされ、都議会ヤジ事件が忘れ去られるのをひたすら待つ。
 そこで篤子がとった驚きの行動とは・・・。
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 この物語には、久しぶりに鳥肌が立った。人間は、ある疑念を持つと、ここまで精神が崩壊するのかと慄然とした。そして、自分が正しいと思い込みはじめると、ここまで暴走できるものなのかと寒気がした。

 本書の主人公は、皆、「自分は正しい」「自分は善」という考えに骨の髄まで侵されている。しかし、己のなかの絶対正義はいわば依存性の高い薬物のようなもので、その時々は気持ち良くても、長期的に考えるととんでもなく人生を崩壊させてしまうものなのだ。

 もし、少しでも「自分は正しい」という思い込みがあるのなら、この本を読んだ方がよい。
 橋を渡りきる前に沈みたくなかったら、読んだ方が、よい。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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