14歳の水平線  椰月美智子

評価:★★★★★

かっこつけて気持ちを隠しているうちに、どれが本当の気持ちかわからなくなって、硬い鎧を脱げなくなっていた。
(本文引用)
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  多くの私立中が、入試問題に本書を採りあげているらしい。それを聞き、私は不安になった。
 
 受験生が試験中に、泣いてしまうのではないかと。
 
 私が受験生だったら、胸が熱くなりすぎて問題を解くどころではなくなってしまうかもしれない。

 冷静さが求められる入試に出すには、ちょっとこの小説は良すぎるんじゃないの?なんて思ってしまうが、一方で、この小説を出題したくなる気持ちもよくわかる。
 先生方は心の底から、試験を受ける子どもたちが幸せになることを願っているのだ。自ら人生を切り開き、人を心から愛せる人間になってほしいと願っているのだ。
 だから、この小説を出題するのであろう。この文章を読ませるのだろう。



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 中学2年生の桐山加奈太は、いわゆる中二病の真っ最中。何もかもがつまらなく思え、常にいら立ちを抱え、父親ともギクシャクしている。
 そんな状況を打開すべく、加奈太の父親・征人は、加奈太を伴い離島の実家に行く。
 そこで加奈太は急きょ、中2男子限定のキャンプに参加することになる。

 参加者の男子6人は、気が合う者同士3対3で分かれるが、互いのグループはどうにもそりが合わない。
 気まずい思いを抱えたまま、ついに彼らは勝負をすることに・・・!
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 この物語には、加奈太の物語と父親・征人の物語が収められている。加奈太は現在、征人は30年前、ともに14歳の時の話だ。
 
 しかし実質、加奈太の物語が主軸になっているといえる。
 何事も「ダッセエ」で片づけていた無気力気味の加奈太が、初対面の少年たちと共に活動することで、自分の視野の狭さや他人の心の強さ、温かさを知り、生き生きとしていく。
 その姿は、「懸命に頑張ることを恥じる」という風潮を一掃する、実に爽やかなものだ。

 そしてそれは加奈太だけではない。
 物語終盤、ついに加奈太たち3人組と、加奈太たちを馬鹿にしつづける3人組とが勝負をするのだが、ここでの彼らの成長ぶりは涙なしでは読めない。
 さらに、キャンプの最後に6人全員が「キャンプで見つけたこと」を発表する場面は号泣必至。あらゆる青春小説のなかで軽くベスト3に入る、文学史上に残る名場面であろう。

 それでは征人の物語は不要なのかというと、そうではない。
 「14歳の頃の征人」が描かれることによって、島に伝わる伝説の由来や、一途に誰かを愛しつづける意味、広い世界に飛び出したいと願う少年の思いがしっかりと伝わり、それが加奈太たちの物語に生きる。
 大人になってしまった、かつての14歳と、大人になることを想像できない現在の14歳。この2つの物語が交差することで、少年時代に何を知っておくべきなのか、また苦い思い出はどのように消化させ、己の人生に活かしていくべきなのかがクッキリと伝わってくる。
 椰月氏の小説は、日常生活をさらりと描いているようで、いつも圧倒されるような凄みがある。私はその理由をずっと探っていたのだが、こんな巧みな演出が、その“凄み”をもたらしているのかもしれない。

 青春小説、夏休み小説の金字塔となりそうな「14歳の水平線」
 中学入試の準備をしたい方、とにかく爽やかな涙を流したい方、本人や子どもが中二病にかかっているという方等々、全ての人にお薦めしたい傑作である。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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