午後二時の証言者たち  天野節子

評価:★★★★☆

幸せは、突然私を置き去りにして、一陣の風と共に消えた。
三月五日午後二時だった――。

(本文引用)
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 ミステリー小説を読んでいると、「こんな手の込んだトリックをする人がいるかしら」「こんな偶然で、事件が解決することなんてあるのかなぁ」などと、一瞬冷めた目で見てしまうことがある。

 しかしこの物語については、ちょっと違った。
 「実際の事件も、こんな風に遠回りして遠回りして遠回りして、真相に行き着くのかもしれないなぁ」
 紛うことなきフィクションなのに、心理および情景描写が非常に細やかなせいか、本物の事件捜査のような目で読みふけってしまった。
 
 これはやはり、60歳でデビューしたという著者の人生経験の賜物だろうか。



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 ある日の午後2時、小学2年生の少女が横断歩道で車に轢かれ死亡した。
 少女の死には、幾人もの人物が関わっていた。

 少女を車で轢いた資産家男性、愛人と逢うために少女の手術を断った外科医師、事故当時現場に居合わせた主婦etc.

 彼らのなかで、真に少女を殺したと言えるのは、いったい誰なのか。
 この事件の関係者が次々と殺されるなかで、刑事は「最も罪を償うべき人物」をあぶり出していく。
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 本書は、「午後二時の証言者たち」それぞれの視点から描かれる。
 
 たとえば第1章「室井啓三の習慣」では、手術要請を断った医師・室井啓三の当日の行動や、その後の心情・動向を解説。
 第2章「永光孝太の愚行」には、少女を轢いた永光孝太の人生や当日の行動、そしてその後の弁護士のやりとり等が細かく書かれている。

 そうして当事者たちの動きや心理が集約された後に、事故および第二第三の事件の真相が暴かれるのだが、これがなかなかつかめそうでつかめない。
 いよいよ真相にたどり着くかと思いきや、ヒュッとそれを引き離すような事実が判明し、悶絶するほどもどかしい。捜査中の刑事と共に頭を抱えるというミステリーの醍醐味を、じっくり味わえるだろう。

 人物の相関関係が複雑なので中だるみが起こるかもしれないが、唯一の事故目撃者「寺島初美の独白」の章から俄然ストーリーが色めき立つので、ぜひグッとこらえて読んでみてほしい。そこからは一気にラストまで読める。
 そして思いもよらない“真実”がわかった時、衝撃と共に涙がポロリとこぼれるかもしれない(私はこぼれました)。

 日々メディアで報道される事件・事故の裏側には、実際にこれほどまでの、いやこれ以上の証言者がおり、その証言1つで加害者側と被害者側の人生がガラリと変わってしまう。
 この小説はミステリーの面白さと共に、その恐ろしさを存分に伝えている。一市民として気の引き締まる一冊だ。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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