つまをめとらば 青山文平

評価:★★★★☆

女は根拠なしに、自信を持つことができる。
その力強さに、男は惹きつけられる。

(本文引用)
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 「直木賞」平成27年度下半期受賞作。以前、「鬼はもとより」を読んだ際に、「作者の方は、女性に対してずいぶん思うところがあるのだなぁ」と感じたが、本作もまた同様。青山氏の女性観というのは、ある種独特のものがある。
  「鬼はもとより」は(ストーリーは面白かったものの)、その女性の描き方についてやや不快感を抱いたが、私も少々若かったのだろう。女性である私自身、女に対して純粋に清らかさを求めていたのだろう。
 しかし今、それはかなり幻想であることがわかってきた。よって、この短編集「つまをめとらば」の男女の仲の機微、特に女性に潜む“何か”について、大きくうなずきながら読んでしまった。
 それが良いことなのか悪いことなのかはわからないが、この物語を楽しめたという点においては、良かったのかもしれない。



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 本書に収められている物語は6編。いずれも「男と女の仲というものは、わからぬものだ」と、フゥとため息をつきたくなるような話である。
 まず第一話の「ひともうらやむ」は、タイトル通り、人も羨むような美人を妻にした男の悲話だ。
 顔も性格も身分も良い、いわゆるハイスペックイケメンの長倉克巳は、世津という女性を好きになる。世津は藩医の娘で、その優しさと美しさから女菩薩と言われる。
 そんな女性だけにライバルも多いが、克巳はめでたく世津と祝言をあげる。
 しかし、克巳と世津との幸せな日々は、悲しい形で終わりを告げる。

 その“終わらせる”役を担ったのは、克巳の親友・庄平だ。
 庄平には、康江という堅実な妻がいるが、美しい世津に心動かされないでもなかった。
 しかし、克巳の悲劇を思えば、妻には康江のような地味な女性が良かったのだと、庄平は己の幸せをかみしめる――。
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 実はこの物語、かなり含みのある終わり方をする。そこがこの短編集の面白さで、男と女の面白さでもある。
 これを読んでしまったら、女性に清純さを見ている殿方はショックを受けてしまうかもしれないが、女は案外そんなものではないかと思う。理想を追い求めて、なかなか伴侶が得られないと嘆いている方には、男女を問わずかなり有効な小説であろう。

 ちなみに私が最も好きな物語は、第三話「乳付」だ。
 自分よりも遥かに家格の高い男性と結婚した民恵は、婚家で肩身の狭い思いをする。その思いは子どもを産んでからいっそう強まり、初産ゆえ上手く乳を飲ませられない民恵の代わりに、親戚の女性・瀬紀が乳をやる日々に落ち込みつづける。
 その悲嘆は、母親としてだけのものではない。夫と瀬紀との仲を疑う「女性としての辛さ」でもあった。

 しかしその後、民恵は瀬紀の意外な過去を知る。

 男と女の危ない交差点のような物語集のなかで、一服の清涼剤ともいえる一篇。
 好きだからこそチロチロと心の中で燃え上がる嫉妬の炎。それが何とも愛らしく、作中の「わたくしは悋気いたしました」という台詞にはグッとくる。胸キュンスカッとを望む方には、お薦めの一話だ。

 青山文平氏が、次はどんな女性像を描くのか、そして外からも中からもわからない男と女の迷走を、これからどう描いていくのか。
 楽しみになる一冊である。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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