朝が来る  辻村深月

評価:★★★★★

永遠に明けないと思っていた夜が、今、明けた。
この子はうちに、朝を運んできた。

(本文引用)
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 「辻村深月の小説って、こんなに良かったっけ!?」
 失礼ながら、そんなことを思ってしまった。

 もちろん、今まで読んだ作品も面白かった。しかしこの小説は、もう今までの「若手作家・辻村深月」の作品ではない。辻村深月はきっと、三浦綾子のような歴史に名を遺す大作家になるだろう。いや、すでになっている!
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 佐都子には、6歳の息子・朝斗がいる。佐都子と朝斗に血のつながりはない。佐都子夫婦は妊娠が難しかったため、朝斗を養子に迎え、懸命にかわいがって育てている。



 しかしある日、その幸せな時間を打ち砕くように、佐都子の自宅にこんな電話が入る。 

「子どもを、返してほしいんです」

 電話の相手は、朝斗を産んだ女性・片倉ひかりだった。

 後日、佐都子はひかりを自宅に招き入れるが、佐都子には、彼女がどうしても朝斗の実母とは思えなかった。

 その1か月後、警察が佐都子宅を訪ねる。「片倉ひかり」という女性を、窃盗と横領の疑いで捜しているという――。
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 本書を読み、まず意外だったのは、特別養子縁組や育児が中心の物語ではないということだ。
 書店で帯を読んだ時には「養子にまつわる葛藤の物語か」と思い、パラパラと冒頭部分だけ読んだ時には「ママ友トラブルの話かなぁ。正直、ありきたりかも」などと、やや低く評価していた(なので、何度書店に寄ってもなかなか購入するに至らなかった)。
 しかし、どうにも周囲の評判が良いので思い切って買ってみたところ、これが大正解(いや、もっと早く読むべきだったので、ある意味不正解)。「ありきたり」などという評価を思い切り裏切る、実にスリリングかつ滋味豊かな物語だ。

 物語前半、養子を迎える決意をするまでの佐都子夫婦の物語も読みごたえはあるが、まだ何とか読者が想像できる範囲内といえる。非常に胸打たれるし、勉強にもなる内容だが、「この小説でないと味わえない面白さ」とまでは言えない。

 しかし、片倉ひかりの物語は違う。「この小説でないと味わえない面白さ」がページの隅々まで詰まっている。
 
 片倉ひかりがなぜ子どもを手放すに至ったのか、6年後、なぜ突然佐都子の家を訪れることになったのか、そして、なぜ警察に追われる身となったのか。

 その展開は、表紙と帯からはとても想像できないサスペンスフルなもので、人間とはかくも簡単に変貌、転落してしまうものかと鳥肌が立つ。その凄みと緻密さが、「辻村深月の小説って、こんなに良かったっけ!?」と思わせる所以だ。

 子育てやママ友関連の泥沼物語に浸かりたい人にとっては、やや期待外れかもしれない。
 しかし、時を忘れてひたすら小説に読みふけりたいという人にとっては、期待以上の一冊であろう。

 2015年の最後に、この物語を読めたことに心から感謝。
 もうすぐ新年の朝が来る。皆さまにとって、2016年が素晴らしい年になりますように。

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Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
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