戦場のコックたち  深緑野分

評価:★★★★★

――もし俺を心配してくれるなら、外の世界でがんばってくれ。もうこんなことが起こらないように。俺たちが戦場に行かなくて済むように。
(本文引用)
__________________________________

 これほど、作者に会ってみたいと思った小説はない。それは「『深緑野分』という作家の顔を見たことがないから」という意味ではない。
 何て温かい物語を書く人なのだろう。何て人間味のあるストーリーを作る人なのだろう。こんな物語を書く人物に会ってみたい!純粋にそう思ったのだ。

 一応、「このミステリーがすごい!」「ミステリが読みたい」で第2位にランクインし、週刊文春のミステリーベスト10でも第3位につけた作品なので、「ミステリー」と位置づけがほうが良いのかもしれない(実際、小さな事件がポツポツと起こるのだが)。しかし、本作はそんなことを完全に超越した文学作品だと思う。あー、何だか泣いちゃったなぁ。この小説に出会えて、良かったなぁ。



__________________________

 舞台は第二次世界大戦最中のヨーロッパ。主人公は、その戦場でコックとして働く米兵たちだ。彼らの主な仕事は食糧の配給や調理だが、毎日累々の死体を見つめながら過ごす苛酷な日々だ。
 そんななかで、彼らはいくつかの小さな事件に出遭う。忽然と姿を消した粉末卵、謎のメッセージを遺して自殺した夫婦、驚愕の動機が隠されていた幽霊騒動etc.
 戦場のコックたちは、自らの知識と経験から、それらの事件を1つひとつ解決していく。
__________________________

 本書は5章構成で、各章に事件発生から解決までが描かれているのだが、どれも単純な謎解きに終わっていない。いや、謎解き自体も素晴らしいのだが、いずれも「人として大切なものは何か」を鋭く訴える内容になっている。しかも「戦場」という、人間最大の犯罪が行なわれている場所を舞台にして描かれているだけに、メッセージが熱くまっすぐに伝わってくる。

 特に心に沁みたのは、第1章「ノルマンディー降下作戦」だ。
 あるハンサムな米兵が、予備のパラシュートを集めているという。しかも、パラシュートを譲ってくれた兵士にはお酒がプレゼントされるということで、兵士たちはパラシュートをかき集める。
 しかし、なぜパラシュートを集めているのかがわからない。若い兵士たちは首を傾げながらパラシュートを集めるが、その裏には意外すぎる理由があった。

 この物語は、ミステリーとしても人間ドラマとしても非常に読み応えのある傑作だ。謎解きサイドから見ると、物語序盤から伏線がたくさん張られているのがいい。その張り方も自然すぎるほど自然で、ミステリー好きの人なら後から何度も読み直しては「こんなところに解決のヒントが!」と膝を打つことだろう。

 そして人間ドラマとしては、「パラシュートを集める理由」と「そうなるまでの経緯」が、何とも人情味あふれる内容で素晴らしい。たいへんハートウォーミングなストーリーで思わず涙がこぼれてしまったが、それだけに戦争が憎いと心の底から思える。

 人が次々と殺されている状況のなかでも、人はどうにかして希望の光を見出そうとする。しかし、戦争はその光すら一度の爆撃で奪ってしまう。なぜ人は、1人ひとりはこんなに優しいのに、世界を巻き込むような争いをしてしまうのか。改めて、「人間とは何か」を深く考えさせられた。

 その他、犯人捜しをするなかで、兵士たちが人種問題について語り合う場面なども良い。特に、白人の兵士がプエルトリコ系の兵士に言った、この言葉が印象的だ。 

「俺には、つじつまが合っているかどうか、何が正しくて何が誤っているのか、自分で判断することしかできない。だら俺も人間だ、相手によって評価を甘くすることはあるだろう。その唯一の基準は肌の色や民族ではない。自分と親しい人間かどうかだ。そして俺はお前と親しいと思っている。違うか?」


 「戦争」という最も人間を信じたくなくなる状況のなかで、これほど人間を信じたくなる物語を紡ぐことができるとは・・・。その作者の手腕と人間性に、ただただ圧倒された345ページだった。最高!

詳細情報・ご購入はこちら↓

関連記事
プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

最新記事
シンプルアーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
RSSリンクの表示
QRコード
QR

書評・レビュー ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村
カテゴリ
広告
記事更新情報
リンク
広告