がんと闘った科学者の記録  戸塚洋二著・立花隆編

評価:★★★★★

「あと18カ月元気でいてくれれば、日本人みんなを大喜びさせてくれる可能性も多分にあった」
(序文より引用)
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 今月10日、ストックホルムでノーベル賞授賞式が行われた。
 このたび物理学賞を受賞した梶田隆章氏は、今回の式典にこの方を招こうとしたという。故・戸塚洋二氏の妻・裕子さん――。

 戸塚洋二氏とは、素粒子ニュートリノの観測施設「スーパーカミオカンデ」を共に率いた物理学者。本書は、その戸塚氏が、がんに倒れてから亡くなるまでの魂の記録である。
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 本書には、同じがん患者である立花隆氏との交流記録と、戸塚氏のブログが載せられている。
 巻末の対談で、戸塚氏が「研究者という職業柄、自分の病状を観察せずにはいられない」と語っているとおり、その闘病記録はデータなども細かく記されており、一見、まるで医師による患者の診察記録のようにみえる。



 しかし読めば読むほど、そこにいるのは「研究者」ではなく「一個の人間」だと感じずにはいられない。もうすぐ死を迎えると宣告された人間にしかわからない、「死への恐怖」が、そこはかとなく漂っている。 

稀にですが、布団の中に入って眠りに就く前、突如、
▼自分の命が消滅した後でも世界は何事もなく進んでいく。
▼自分が存在したことは、この時間とともに進む世界で何の痕跡も残さずに消えていく。
▼自分が消滅した後の世界を垣間見ることは出来ない、
ということに気づき、慄然とすることがあります。

 そして、「意識のない状態が続いた」ことに対する驚きと戸惑いも、科学者ではなく「一個の意識ある人間」の心情として包み隠さず綴られている。

 本書を読み、現在生きている者として痛烈に感じるのは、生きている者、とりあえず医学上当分は死ぬ心配がないとされている者は、おいそれとは「死者の心情」を語ってはいけないということだ。
 戸塚氏は、「千の風にのって」の歌詞や、家族を失った遺族の言葉などを採りあげ、それは生者に送っている言葉であり、死んでいくものの目線ではないと批判する。
 そして続ける。「実際に死にいく者の視点で物事を見てみたい少数の人々もいることを理解してください」と。

 確かに、死んでしまった後の人の気持ちなど、誰にもわからない。あと数か月の命とされた人の本当の気持ちも、他者にはなかなか理解できないだろう。
 しかしだからといって、死者や死にいく者の思いや視点を持つことを放棄しては、絶対にならない。
 本書を読み、そんなことを心に誓いながら、生きている者、生きられる者の傲慢さというものに打ちのめされた。

 人は必ず、いつか死ぬ。誰もが必ず「死にいく者」になる。
 その意味で、本書は、現在生きている者すべてが読むべき一冊といえるだろう。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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