大村智 ~2億人を病魔から守った化学者~   馬場錬成

評価:★★★★★

大村は「絵でも同じで、この絵はあの人の作品だと一目で分かるくらいにオリジナリティーがないと価値がない」と言う。
(本文引用)
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 本書を読むうちに、以前読んだ「理系の子」という本を思い出した。
 それは、「科学と芸術を語る」という点で共通しているからだ。

 メディアでもすでに報じられているように、大村智氏は故郷に美術館を建てるなど、芸術に造詣が深い。それが報道された時には、「なぜ化学者が美術館を?」と不思議な気持ちになったが、本書を読み大いに納得した。
 
 「泥をかぶる覚悟で、自分にしかできない研究をする」と決意した研究者が、「自分にしかできない表現」を追い求める美術に傾倒していったのは、ごく自然なことだったのだ。



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 本書は、今年ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智氏の半生が綴られたものである。

 ただし、本人が書いたものではない。
 そう聞くと、「何だ、大村先生ご本人が書いたものではないのか」と落胆する人もいるかもしれない。しかし、本書には「本人ではなく第三者が書いたからこそ」の面白さが存分に詰まっている。
 大村氏の研究や半生はもちろん、歴史上の細菌学者たちの研究、大村氏をめぐる時代背景や氏の活動に対する外部の評価まで緻密かつ冷静に書かれており、非常に読み応えがある。

 さらに、記者の方が書いただけあり、内容がとにかくわかりやすい。
 大村智氏の研究はなぜ世界で認められたのか、一流の研究者であり経営者でもある「大村智」を作り上げた土台とは何か、大村氏が絵画に込める思いとは何か、そして、今回ノーベル賞の対象となった研究とはどのようなものなのか。
 それらの点について、なめらかかつ真摯な筆致で、誰にもわかるように書かれている。素直に「良い本だなぁ!」と絶賛したくなる内容だ。

 そんな幅広い視点から大村氏について書かれているため、「エバーメクチン」に関する記述はやや少なめ。エバーメクチンについてじっくり知りたいという方には、もしかすると物足りないかもしれない。しかし本書を読むことで、エバーメクチンを知ること以上に大きな財産を得ることができるだろう。

 「2億人を病魔から守った薬」は、ある日突然できるものではない。
 毎朝早起きして実家の農業を手伝ったこと、スキーや卓球、ゴルフ等スポーツに親しんだこと、服に油染みを作りながら夜間高校で学ぶ生徒たちと触れ合ったこと、美術や音楽を愛したこと、必死に努力する姿を見ていてくれた恩師がいたこと、北里研究所再建のために財務を勉強したこと、そして、朗らかな妻と手を取り合って生きてきたこと・・・。
 本書を読んでいると、そんな一見化学と関係のなさそうな出来事1つひとつが、全て今回の栄冠につながっていることがよくわかる。

 なかでもやはり、大村氏の絵画に対する思いがうかがえるエピソードは、一読の価値がある。
 時に心を癒し、時にオリジナリティーの精神を奮い立たせる絵画。そんな絵画の力を、患者の笑顔に変え、研究の原動力に変えていく大村氏の姿には心洗われる思いがした。これは何としてでも、韮崎大村美術館にも行ってみねばなるまい。

 異色の経歴をもつ化学者の半生を描いた「大村智」。本書を読めば、経験は全て自分の糧になる、無駄なものなど一つもないということがよくわかる。そして、それを無駄にするかしないかは自分次第であるということもまた、ヒシヒシと伝わってくる。
 そんな人生の楽しさ、厳しさ、面白さを教えてくれる良書である。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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